仕事を終えたエリーゼは自室に直行したことを後悔した。

「おかえり」

無邪気な笑顔を向けるシュレディンガー准尉。ここはエリーゼの部屋であり、鍵も掛けていた筈だ。

「また勝手に入ったのね」

なんというか実に困った性質を持つ猫だ。呆れ顔で溜め息をついてもそんなのには目もくれず、部屋にあったココアを勝手に作って飲んでいる。

「少尉も飲むー?」

飲むじゃないでしょ、と言っても無駄なのはわかっていたのであえて言わず、素直に頷いた。言ったところで適当に返されるのがオチだ。博士が毎度の如く頭を抱えるのがよくわかるし、なによりも一緒にいると調子が狂う。なのに憎めないそういう奴。

「ココア入ったよ」
「ありがとう」

甘ったるい匂いがふわりと香る。一口含めば、想像以上の甘さ。

「准尉は甘党なの?」
「うーん、特別好きって訳でもないけど、もしかしてココア甘すぎた?」
「ちょうどいいから大丈夫よ」

甘いココアは久しぶりだった。
エリーゼがいつも作るココアは砂糖が少なめでほろ苦い所謂、大人の味。
甘くやわらかい味わいのココアはなんだかほっとする。


「ねぇ、キスしていい?」
「子供とはしない主義なの」


シュレディンガーはエリーゼの部屋に来るたび同じことを言う。それに対してエリーゼも毎回同じことを言ってやる。

「少尉はいつもそればっかだよね」
「貴方も同じよ」
「僕は少尉の事が好きなだけ」

ストレートすぎる告白も何度も聞いた。適当にあしらうと帰ってしまうのだが今日は少し違った。

「じゃあさ、僕が大人になったらしてもいい?」

ココアの入ったティーカップをくるりと回して口に運ぶ。少しぬるくなったココアは余計に甘く感じた。

「…いいわよ」
「ほんとに!?約束だよ!」
「ええ」

にやっと笑ったシュレディンガーはどこかへと消える。相変わらず変な猫だ。
テーブルに置いてある二つのティーカップを見つめ頬杖を突く。

「負けた」

苦笑いしながら溜め息をついた。



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