ズキンズキンと胸を刺すような痛み。いつから痛みはじめたのだろう。とにかく痛くて痛くて、胸が張り裂けそうだ。何百年と生きてきた吸血鬼である私が胸の痛みに苦しみ悶えるなんて考えられなかった。

このような屈辱に合うのならば誰でもいい。
この心臓を抉り私を闇の底に叩き落として。

ああ、痛い痛い痛い。
むしゃくしゃする。


「いつまでぼさっとしている」


聞きなれたあの声が私を呼ぶ。後ろを振り返ればやはり、死神ウォルター。胸の痛みはすぅーっと呼吸をするかのように引いていく。
いつもそうだ。
この男を見ていると痛みは落ち着くが、代わりに訳のわからない感情がぐわっと押し寄せてくる。血管は沸々と煮えたぎるように熱くなり、己が己ではなくなるような。
闘争、と似ているのかも知れない。けれど違う。何かが違うのだ。その何かが違うせいで私は苦しむ。

ウォルターを殺せばいい?

否、それはありえない。私にウォルターを殺すことはできない。心の中に渦巻くもやもやとしたものが邪魔をするからだ。

「仕事に行くぞ」

彼の言葉は私の耳をすり抜ける。まだ何かを言っている気がするけれど理解さえできない。私が無視をしているとでも思ったのか肩に手を置いて軽く揺すられながら声を掛けてくる。

熱い熱い熱い。

私の体温が上がるはずないのは百も承知。なのに触られた部分から全身へと熱が伝わるような感覚に襲われる。熱くて溶けてしまいそうだけど、もっと近くで感じてみたい。
気付けば私はウォルターに抱きついていた。

「なんだ」
「わからない。でもこうしていると気持ちが落ち着く。私は病気なのかしら」

彼の顔は見えない。
きっと呆れた顔をしているのだろう。そのうち引き剥がされて、私は頭のおかしい吸血鬼扱い。

「落ち着いたら仕事だ」

想像していたのと全く違う返答だが、少なくとも彼は私を正常と見なしているのだろう。私がもう少し強く抱きしめると彼は優しく抱きしめ返した。人の体温をこんなに近くで感じたのははじめてだった。溶けだしそうに熱かった身体も柔らかい暖かさに包まれ心地よいものに変わる。

だけどまだ残ったものが一つ、解決しないまま私の心に居座っている。



正体不明の感情







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2011.8.16



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