局長、局長、と呼ばれ重たい瞼を上げたマクスウェル。ぼんやりとした視界にはわざわざ食事を持ってきた局員。

「お仕事お疲れ様です。ここに置いておきますね」
「ああ」

食事を置いて局長は出ていった。

(ここで寝てたのか)

覚めきってない脳は昨日の事をゆっくり思い出していった。結局あの後、溜まっていた仕事を終わらせるため局長室に籠ったままでグローリアと会うことはなかった。仕事はというとなんとか片付いて今に至る。

今朝の朝食もカプチーノと甘めのクロワッサンが2つ。お決まりのメニューだ。眠い目を擦りながら、焼きたてのクロワッサンが冷めないうちにかじりつく。焼きたての香ばしさに口の中で広がる甘さ、よく味わい飲み込んだ後のカプチーノは絶妙だ。
2つのクロワッサンを食べ終えると部屋のノックと同時に、アンデルセンと修道服を着たグローリアが入ってきた。修道服姿は様になっている。

「丁度食事も終わったみたいですしグローリアに孤児院の案内をしてあげて下さい」

朝っぱらからめんどくさい気持ちもあったがそれくらいならいいか、とマクスウェルは引き受け、二、三言葉を交わすとアンデルセンは部屋を出ていった。

「それじゃあまず、ここは局長室だ。局長である私はここにいることが多いから何かあったら来るといい」
「局長?司教様じゃなくてですか」
「言ってなかったな。私は司教でもありここ第13課の局長でもあるんだ」

少し得意気に言ってみるとグローリアは瞳をキラキラと輝かせている。
尊敬の眼差しで見つめられると、意識していなくても口角が上がった。

「では、次へ行くぞ」





挨拶や説明をかねたマクスウェルの孤児院案内はグローリアにとって楽しいものだった。孤児院の子供には小さい者からグローリアと同じくらいの者まで。辛い過去を抱えている者も多いが彼らは明るく、彼女に優しく接してくれた。

「ここでの生活、なんだかうまくやってけそうです」
「それはよかった」

グローリアの言葉にマクスウェルは安心した。


彼女といると不思議と心が和らいだ。殺しの第13課の局長である自分が本当にただの司教で、ここもただの孤児院なんじゃないかと思うくらいに。
そんなことを考えながら歩いていると今まで隣で聞こえていた筈の足音が聞こえないことに気付く。横を向いても誰もおらず、振り返ると少し離れた所でグローリアは外を見ていた。その顔は寂しげな表情を浮かべている。

「ここにいる人達はみんな優しく接してくれて嬉しかったですし、アンデルセン先生もここが私の新しい家だと言いました。けれどひとりぼっちは変わらないんですね。心の隙間も埋らないし記憶も空っぽ」

こういう時なんと声を掛ければいいかわからなかった。アンデルセンならなんと言うのだろうか。
いくら思考を張り巡らせても言葉は出てこない。

「ねぇ、司教様。私はこのままずっとひとりぼっちなのでしょうか?」


"ひとりぼっち"


彼女も自分もひとりぼっちなことにようやく気付いたマクスウェルは息を飲んだ。仲間や友達を作らず、誰もかれも見返してやりたいと思う反面、心の孤独が常に付きまとっていた。寂しくて哀しくて不安の波に押し潰されそうになるときが今でもある。
そして彼女も同じように、今その波に押し潰されかけている。

「お前も私もひとりぼっち。だったらひとりぼっち同士家族になればいい。今日からお前は私の妹だ」
「私が妹……?」
「そうだ。そして私がグローリア、お前の兄になる」

衝動的に口走ってしまい自分でも何を言っているかわからなかった。けれどこれが精一杯だった。
グローリアはぽかんとした顔のままマクスウェルを見つめているかと思うと急に笑いだした。

「それとっても素敵なアイディアです!司教様が兄だなんて光栄です」

楽しそうに笑うグローリアに目を丸くするマクスウェル。衝動的に言ってしまったことがまさか受け入れてもらえるとは思ってもなかったのに。

「嬉しくなったらお腹が空いてしまいました。一緒にお昼にしましょう、"お兄様"」

そういってマクスウェルの腕を掴み、グローリアは走り出した。


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