「フェルディナントルークス院まで頼む」

行き先を告げると運転手はにこりと目礼し車を発進させた。たまたまタクシーに備え付けてあった毛布を借り、マクスウェルは震える少女に掛けてやった。小さな声だがしっかりとお礼をすると掛けられた毛布にくるまる。それからそう時間が経たぬ間にすやすやと寝息を立てはじめた。

ちらりと見えた首筋には痣。グローリアは今までどんな生活を送ってきたのだろうか。問いかけても無意味なのは先程の会話で承知済みだ。覚えているのは名前、年齢、両親がいないということだけ。所謂、記憶喪失とやらなのだろう。よく聞く話では頭に強い衝撃を受けたことで記憶をなくし、同じような衝撃を与えると記憶が再び蘇る、なんて都合の良い話。
辛い過去を忘れ、新たに幸せな記憶を残していくのもよいだろう。けれど、何かの拍子に記憶が蘇ったとする。今まで通り楽しくて幸せな生活は続くのか……

「着きましたよ」

運転手の声でグローリアは目を覚まし、マクスウェルが料金を支払い、二人揃って外に出ると運転手は愛想よく笑い車を走らせた。

いつの間にか雨は止み、雲間から日の光が差し込んでいる。
グローリアが転ばぬよう軽く支えながら門を通り抜けると、孤児院の玄関から、化け物退治をしに行ってた筈のアンデルセンが出てきた。マクスウェルとグローリアの姿が彼の目に映ると急いで駆け寄ってきた。

「仕事を終えて帰ってみれば貴方はいませんし、ようやく帰って来たのかと思えば"猫"を拾ってきたのですか」

大柄な男を前にしてグローリアはささっと、マクスウェルの後ろに隠れ、様子を伺うように顔だけ覗かしている。

「よくわからんが怯えてるぞ」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私はアレクサンド・アンデルセン。ここの神父です。君の名前は?」

穏やかな笑みを浮かべるアンデルセンへの警戒心が解け、マクスウェルの後ろから少女は現れた。

「グローリアです」
「良い名ですね。これからは此所が貴女の家ですよ」

見ず知らずの自分を受け入れてくれたのが嬉しくグローリアは微笑み、返事をした。

二人に連れられ孤児院の中に入ると、数人の小さい子供達がグローリアの周りに集まり話し掛ける。いきなりのことにたじろいでしまいグローリアは言葉を濁らせていた。

「いっぺんに話し掛けるからグローリアがびっくりしているでしょ。彼女は今さっき来たばかりで疲れているんですからね。お話はあとにして、部屋に戻りなさい」

はーい神父様、と声を揃え、子供達は部屋に戻っていった。流石と言うべきか、アンデルセンの子供の扱い方は孤児院の誰もが認めているほど上手いのだ。マクスウェルも毎度の如く、感心させられている。

「さてと、先ずは身なりを整えましょう。そのあとは食事にし今日はゆっくり休みなさい。それからマクスウェルは仕事を片付けなさい、今すぐ」

うっ、と小さく声を上げるマクスウェルを置いて二人はいってしまった。


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