あと2時間もない(七夕のお話)
2013/07/07 22:23


「徐倫、お願い事はこれで全部かい?」
「まってーあともういちまい!」
「ああ分かった分かった。慌てなくても大丈夫だよ」

輪っか状の飾りを作るジョナサンの後ろで徐倫が熱心に文字を書き続ける。握りしめられた油性ペンはきゅきゅきゅっと軽快に動いていた。
本日は7月7日。いわゆる七夕、である。
世間に漏れずこの日の為に用意した笹には既に色とりどりの願い事が目一杯かかっていた。
6人兄弟だから当然と言えば当然だが、特に徐倫のそれの量は半端ではない。
元々願いが多かった(と言っても友達ともっと仲良くなりたいとかTDピーに行きたいといったものばかりだが)ことに加え、恐らくは最近ひらがなを覚えたことも原因だろう。子供は学んだことをやたら見せびらかしたがる。

末っ子の彼女もついに字が書けるようにまで育った。まだ解読には時間を要するが、そんなこと問題ではない。
ジョースター家の小さなお姫さまが小さな成長を遂げられた。それだけ。家臣…もとい、5人の兄が一晩中騒ぎ回るにはそれだけでも充分すぎてお釣りが来るほどである。
特に長男として誰よりも弟妹の世話をし、その成長を見届けてきたジョナサンは、この時期になるといつもむず痒い感覚に襲われた。
肩の荷がすとんと落ちたようで、それでいてどこか寂しくて、心の中をぐるぐると渦が巻く。
よく分からないけど、子供が自立したときの親ってきっとこんな気持ちなんだろうな。そう考える己の年寄り臭さに思わず苦笑した。

「かけたあ!」
「どれどれ」

鈴を転がしたような声が聞こえ後ろから短冊を覗き込むと、筆者はかなり誇らしげな表情を浮かべている。いかにもドヤ、の効果音が似合いそうだ。

「すっかり上手くなったねえ。ここ、一緒にって書いてあるだろう」
「うんっ、『かぞくみんなでずーっといっしょにいられますように』って!」

とは言うものの実際は全てを読み取ることは出来なかった。脱字は吹き出しを書いて無理に付け足し、誤字は黒く塗りつぶされている。
それなのに、その不恰好に胸を暖かくし顔を綻ばせてしまうのはやはり自分がこの子の兄だからだろうか。
ふとここで些細な好奇心が生まれる。

「そうだ、みんなって誰のこと?」
「えっ?えっとえっと、ジョナサンでしょ、ジョセフでしょ、じょーたろーでしょ…」

急な質問に驚きはしたものの、すぐに兄達の名前をすらすら答えていく徐倫。それを見てはまた感慨にふける。
以前似たような質問をしたことがあったが、その時は思い出すのに時間がかかったり呂律が回らなくて上手く言えなかったものだ。まあそれもそれでたまらなく可愛いのだが。
人知れず兄馬鹿を炸裂させるジョナサンだったが、次に徐倫の口から飛び出した発言が一瞬にして彼を目覚めさせる。

「じょーすけでしょ、ジョルノでしょ………あ!ディオも!」
「…は?」

ビシッ、と、音をたてて体が固まった。
待て待て待て待て、なぜそこでその名前が出てくる。自分の聞き方がまずかったんだろうか、そうだ、みんなと聞くから家族以外も含んでしまったんだ。全く僕としたことが。

「徐倫、家族の名前だけでいいんだよ」
「?ディオはかぞくでしょ?」
「ど、どうしてそうなったのか教えて、くれる…?」
「ジョナサンはディオのおよめさんになるっていってたから」
「ぶっ」
「そしたらあたしたちともかぞくだねって」
「聞くだけ無駄だけど誰に聞いたの」
「ディオ」

予想通りすぎて乾いた笑いしか出ない。ジョースター家の姫は不幸にもこの世で一番たちの悪い悪魔に、いや吸血鬼に気に入られているのを忘れていた。
ジョルノといい徐倫といい、彼には幼児趣味でもあるのではないか。
しかし疑ったところでどうせ「俺が愛してるのはお前だけだ」と返ってくるのは目に見えている。これも聞くだけ無駄だ、とりあえず次会ったら問答無用で泣くまで殴ってやろうと決意した。
妹に不毛なことを吹き込んだ罪は重い。

それからこの長方形の紙はどうしよう。
一見すれば家族の幸せを願う素晴らしい短冊だが、もし織姫と彦星が徐倫の信じこんでいる通りに望みを叶えられてしまったら…。あんなことのためにこんなものを飾るなんて、自作の不幸の手紙を送りつけた相手にそのまま送り返してくださいと言っているようなものである。
それでも人が、妹が一生懸命書いた短冊をそんな風に呼ぶのは紳士として、兄として恥ずべきことだ。

(逆に考えるんだ、たとえ僕が不幸になったとしても弟たちは幸せになる)

そんな自己犠牲心を働かせながら短冊をくくりつける寸前、ジョナサンはある対抗策を思い付いた。
徐倫に見つからないよう内密かつ迅速にペンを走らせると、いつの間にか紙の裏に願いが増えている。




『PS,僕の未来の家族、エリナ・ペンドルトンにも幸福が訪れますように』




家族、の部分が太文字で強調されていたのは言うまでもない。





(よし、飾り付け終わり)
(ジョナサンジョナサン)
(なんだい?)
(けっこんしきぜったいよんでね!)
()




おわり。



やまなしおちなしいみなしでなにがわるい(開き直り)
お付き合いありがとうございました(´^ω^`)





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