阿波まとめ | ナノ 05.七年が六年の時の予算会議の様子2



ぎゃいぎゃいと言い合いを始めた二人を他所に、予算の話しあいは続いていた。
いつの間にか来ていた用具の二人が却下された予算の用紙を片手に黒い笑みを落とす。


「会計委員会の提示した予算では学園の修補はおろか、その為の道具や備品を用意するので精一杯なんだけど」
「材木や壁土なんかも金がかかるからね。もう少し上げてくれると嬉しい」
「あらあら、葵君と六甲君まで」
「用具、順番は守れ。先に来とったんは図書じゃ」

「うーん…どっちも平ちゃんに勝てたら考えんこともないけどなぁ…」

「その言葉、確かに聞いたけんね!」
「悪いけど…予算は頂いて行く」


ばっ!
天上から飛び降りてきたのは体育委員会の伊予と豊後。どちらも両手にバレーボールを握って…いや、伊予の方は右手に蜜柑を握っていた。
そのまま阿波と言い合いを続ける讃岐を狙う…が。


「甘い!三木ヱ門っ」
「はい!」
「なっ!?」
「煙幕だと!?」


途端室内を覆う白い煙。しゅううと気の抜けるような音の発信源は奥に控えていた会計委員の三年生で、これは予め用意されていた罠のひとつ。
だがもくもくと視界を奪う煙幕程度、気配を読むことに長けた六年生達にとって障害にもならない。それでもその中で、讃岐はおかしそうに笑った。
これは彼らを一時沈めるための物でしかないのだ。


「ふふふ…何でもアリやったら中々決着がつけへんけんな。これから俺の持っとる会計印を奪えた委員会ひとつにだけ予算の上乗せをしたる。逆に却下印を押された奴のおる委員会はそのまま!一番初めに押された委員会は全面カットや!」
「なん…だと…!?」
「お、鬼!悪魔!」
「ふはは!なんとでも言え!」

「こっちに利があまり無い上に、少人数の委員会は圧倒的に不利じゃんか」
「そこんとこどうするの、湖滋郎君」
「委員会の委員長のみの代表戦。潰し合いありのバトル・ロワイアル方式でどうやろ。奪えんでも却下印押されてなかったら幾らか融通したるわぁ」

「「「乗った」」」

「うわっ!?」


煙幕の薄れた部屋や庭先に、しゅたたっ!と何処からともなく現れて着地したのは、各委員会の六年生達だった。
姿が見えないと思っていたら、どうやら気付かぬうちに話を聞いていたらしい。
驚いて声をあげた左門達下級生を他所に、気付いていたらしい上級生たちは淡々と話を進める。


「武器はアリか」
「やりすぎん程度なら。重傷者出ると保健が怖いからなぁ」
「あやまちはだちかん」
「平和に籤とかも考えたんやけど…一部可哀想過ぎて…」
「じっとこっち見んな!」
「まぁこれもお祭りみたいでええよ!」
「観戦チケット売ったら儲かるやろかぁ」
「じゃあ学級は実況しようか。三郎ーマイク持って来てー」
「異論ないなら裏山行くでー。範囲は裏山だけ!終了は午後の鐘が鳴るまで!裏山から出たり重傷者出したら失格なー」
「「「おーっ」」」


ぞろぞろと移動する上級生達を、ぽかんと口を開けて見送る下級生一同。
その一人である、会計委員の神崎は帳簿と矢立を手に立ち上がった近江へ首を傾げて見せた。


「どうして今回はこんな事を?」


例年通りこの室内と庭先を戦場に攻防戦が行われるものだとばかり思っていたのに。
周囲も同じく不思議そうなのを見て、近江がふふっと笑った。


「先生方から苦情が出てなぁ…私らが全員ぶつかったら学園が無事じゃすまんから、少人数で外行ってケリつけて来いって」
「学園が?」
「去年ちょっと長屋の一部が崩れたやろ?あれの修繕費考えたら大目に予算取る方が安いもんや」

「長屋の一部が…!?」


傍で聞き耳を立てていた一年生達が悲鳴をあげてざわっと揺れた。
それだけならまだ冗談と取れたが、ああ、確かにあれは怖かった…と二年以上が真剣に頷くのを見て、更に青褪める。


最上級生って怖い。


後輩達にそんな共通認識が植わった瞬間だった。



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あれ…予算会議前哨戦くらいで終わっちゃっただと…/(^o^)\



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