阿波まとめ | ナノ
節分2:鬼は外



「今年もぎょうさん来とーわ」

各々が豆を持ち、樹の枝に紛れるようにして隠れ下を見下ろす七年と六年逹。
ここに到るまでに察知した侵入者は通り抜け様に倒し捕えたはずなのに、まだ誰の豆も減ってない。

「六年は絶対七年の誰かと行動しろ。一人になったら豆を飲め。…ほな、川べりはわいな」
「ならワシは向こうじゃ」
「ほいきた岩の影」

次々と役割が決まっていく。最後の一人が呟いたあと、「ほな、夕飯までには終わらせまひょか」という声で一斉に姿は消えた。





「おーぽんぽこ…もとい勘ちゃん。そっちはどうだった。ってか何で一人なの他の奴らは?」
「何度も言うけど俺は狸じゃ…って阿波先輩!?そんなびしょ濡れで何してんのこの季節に!」

捕らえた侵入者を各地で監視する先生に引き渡して引き上げる最中、尾浜の頭上から聞きなれた声がしたかと思うと、次の瞬間には目の前に濡れ鼠になった阿波が立っていた。

「一人は危ないし、もう夕飯だし、一緒に帰ろっか」
「何処の娘っ子ですか…だからそれ」
「いや、鬼さん泳ぎが達者でなぁ…豆ぶつけるのに半日がかりだ。ってかどういうことなの去年よりレベルアップしてたんだけど」
「鬼…?」

阿波は笑って、升に一粒だけ残っていた豆を怪訝な顔をした後輩の口に押しこんだ。

「お前逹も来年は鬼追いの役だなぁ。頑張れよ」

鬼というのはいいものと悪いものがあり、悪いものの中には子を好み、攫ったり命を狙う輩もいる。忍術学園は子供逹が多く居るので、その生気に惹かれて集まる悪いものをこの時期一掃するのだ。幸い時期柄弱まっている鬼達は、豆をぶつけることで邪気を祓われ消えていく。
ここで気をつけなければいけないのが、鉄や火薬の類を見せれば逆に問答無用で襲いかかられることだ。豆を当てるだけでいいのに、武器を出して大怪我を負う、なんてことになっては目も当てられない。
そのためこの日は武器を持って応戦することは固く禁じられていて、鬼追いの役を命じられた生徒達は各々罠や縄、体術で侵入者と鬼の両方と対峙する羽目になるのだ。ちなみに普段施してある侵入者用の仕掛けも、この日ばかりは外されるため、それを知った忍者がこれ幸いと忍んで来たりもする。

「えぇぇ…何ですかそれ…っていうか、それなら毒虫とか、それこそ讃岐先輩みたいに麺棒とか木製の武器で応戦しても、」
「甘いなぽ…勘ちゃん。これは俺達の力試しも兼ねた訓練なんだ。俺達には鈍るな、六年には武器に頼りすぎるなってことだろ」
「五年は?」
「俺達が捕まえた曲者の運搬係」

たった今、まさにその通りの行動をしてきた尾浜は納得するしかなかった。
気付けば学園の裏門の前、他の五年達も先輩と共に続々と集合していた。元々升を積み上げていた場所に置かれているたらいに、使い終わった升を置いていく。

「お、吉野と勘右衛門…っちゅうか吉野、ずぼずぼやん。大地みたい」
「え、何、どういう意味平野くん」
「これで五年は全員じゃな。ほな、次行こか。んで誰か手拭い貸してつかい」
「え?」
「先輩方はどうするんですか?」

出発前にあれほどあった豆はもう一欠けらも残っていない。なのにまた出るという阿波達に、五年生一同は首を傾げた。

「俺達はこれからが本番だ」
「七年総当たり戦、武器はないけどぽろりはあるよ、と。六年も(強制的に)混ざるけどね」
「ハンデ一切なしだけど、お前達も出るか?」
「「「「「遠慮しときます」」」」」

綺麗に揃った声に、戻って来ていた七年生達は笑いながら次々と姿を消していった。





…さらば、六年生。明日はきっと姿を見ないだろう彼らに、深く敬礼。



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