阿波まとめ | ナノ 05.七年が六年の時の予算会議の様子1



しんと静まりかえった室内。
中央に座した男が、ゆっくりと目を開いて周囲を見回した。


「またこの日が来てしまったな…」


男と目を合わせた者から順に、己の抱える帳簿や算盤を握りしめてぐっと息を飲む委員達。
学年は違えど、その覚悟は同じ。瞳からそれを見てとった会計委員長は、にやりと笑い拳を握ると高らかに宣言する。


「燃えよ会計委員会!予算会議と書いて…」

『合戦と読む!!』


――この瞬間、予算会議という名の戦争が幕を開けたのだった。





「ほんじゃー行こか」


障子が勢いよく開くと同時に、シュパパパッと何かが室内へ飛来した。
下級生が驚いた声を上げるより早く讃岐の振るった麺棒によって全て薙ぎ払われたそれは…図書貸し出しカード。


「一番手、図書委員会」
「推して参る」


カードを投げた犯人達が高らかに宣言する声に、讃岐はおや、と目を丸くした。


「てっきり一番手は体育か火薬やと思っとったわ」
「今年はウチ、新人がいるから張り切ってるんだよね」


ちら、と金沢が目線だけで振り返り、障子の向こうで不破の後ろに隠れている能勢を見て微笑んだ。
二年間越しでやっと手に入れた新たな委員の初陣だ。出来ることなら勝ち戦を見せてやりたい。
…ちなみにそれがトラウマになるかもしれないなんて、まったく考えないのが今の最上級生達なのだった。


「ほれ、予算案の直しじゃ」


事前に提出して駄目だしされた物を、再度計算して書き直した物を差しだす厳島。
ぺろんと差し出された紙を見るまでも無く隣に座る近江に手渡す讃岐。

近江は渡された紙に一瞬目を向けた後、いつのまに用意していたのか朱墨で大きく×を書いて放り出した。


「却下」
「却下早いわ!せめてちゃんと読め!」
「いやいや読んだよ?でもなぁ…その本の購入費ってとこ、も少し抑えれるんちゃう?」
「新しい本は必要じゃけー」
「わざわざ新品に手ぇ出さんでも、古書買えばええやん」
「新書は古書店に出回るまでにちーとばかし時間がかかるし、抜きも多いじゃろ。ある程度は古書で買ぉてもええけど、やっぱり最新の本を入れておきたいんじゃ」


近江と厳島がああでもないこうでもないと話し合っている横で、讃岐がおもむろに一番小さい麺棒を外へ向かって投げた。


ドォンッ


麺棒が庭先の空中で飛んできた何かとぶつかった瞬間、度肝を抜くような爆音が響いた。
部屋の前で待機していた図書委員達は勿論、部屋の中にいた会計委員も思わず耳を塞ぐ。値段交渉をしていた近江と厳島、それに金沢だけは何事もなかったかのように話し合いの詰めに入っていたが。


「おい、うるさ…」
「平野…わいは悲しい。おまはんはもっと理解のある男やと思っとったんに…」
「…吉野?」


ゆらり。いつの間にか庭に立っていた男はまるで忍術学園随一の剣術使いのように、幽鬼の様な足取りで近付いて来る。
その普段とのあまりの違いに、さすがに讃岐の眉間に皺が寄った。


「予算案、あれはどういうことや」
「なんかおかしなとこあったか?」
「あったどころやない」


きっぱりと言い切った阿波は、ずっと握っていた用紙…却下された戻された予算案を広げて叫んだ。


「なんで変形ロボの開発費が認められんのや!男の浪漫やろ!?」


………。


「認められるかボケェ!」
「男なら認めろ!そして予算寄こせ!」
「ぜぇぇったいやらん!!」
「がいな奴っちゃ!そこへ直れダイソン丸三号で切り捨ててくれるわ!」
「寧ろ吸引しそうな名前!?」



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