阿波まとめ | ナノ 14.現パロ



「あー終わった終わった」


うーん、と伸びをしながら人でごった返す下駄箱の前を通り抜けると、どうやら部活へ行く者が大半だったようで門へ続く道にはまばらにしか人がいなかった。

阿波も本来は委員会活動をする予定だったが、メンバーの大半に用事が出来て本日は中止となってしまった。そうなると部活へ入っていない阿波は一気に暇になり、時間を持て余すことになってしまったのだ。
確か図書室は急遽寄贈された書籍を収納するスペースを確保するため書庫整理をしていた筈だし、教室は補習授業で使用すると担任が言っていた。鍵を持っているので委員会室へ行ってもいいが、一人だとなんだか部屋を改造したくなるので危険だ。以前それで委員達全員に怒られた。あの控えめな富松にまで。


「うーん、でもなぁ。帰っても暇やなー」
「あれ、吉野?今帰りか」
「お?三河やん」


この後の予定を考えていると、後ろから声がかかった。
振り返ると見慣れた友達、尾張三河の姿。不思議そうに首を傾げる尾張が隣に来るのを待って、今度は並んで歩きながら阿波が訊ねた。


「何、火薬委員会も休みなん?」
「うん。皆用事が出来りゃーて。その口振りだと吉野もか」
「うちもうちも。あ、暇やったら帰りファミレス寄ってかん?近くに出来たって湖滋郎が言よった」
「いいよ。俺、肉食いたいし!」
「わい魚食いたい!」
「わはパスタく!」


暇そうな友を見てこれ幸いと阿波が出した提案に尾張が乗ったとき、またも後ろから声がかかった。
三河と振り返れば、そこにはやはり友達の一人、雪森凛太の姿。手には何やら大きめの紙袋が納まっている。恐らく中味は林檎だが、それを特に不思議と思わないのが彼らであった。


「凛太も委員会なかったんか」
「わのトコは活動自体曖昧だばってらね。今は特にすることもねから、暢気なもんだ」
「そりゃあけなるいし」
「そんでもねっけどな。ほれ、行ぐぞ」





「…何してはるん?」
「あ、若と祭やん」
「お疲れー」
「何が?」


ファミリー向けというよりも値段の手頃さから若者向けの傾向が強い、某有名チェーンのレストラン。
建ってそれ程経ってない店内はまだ新しさが目立ち、放課後の時間帯ということもあって学生を中心にそれなりに込んでいたが、その光景は嫌でも目についた。


何やら危険な色合いの飲み物が入ったコップを中央に、真剣な顔をしてババ抜きをしている集団。


委員会帰りに偶然出会った花笠と共に少しお茶でも、と最近友人から聞いた店へと来てみればそんな光景を目撃することになってしまったのだから、宮比が深い溜息を吐いたとしても誰に責められるはずもない。
ただ当の本人達は不思議そうに首を傾げたが。


「何がって…なんでそんな真剣にババ抜きしてはるんかってことどす」


溜息を吐いた最大の理由。それは彼らの異様な真剣さにあった。
気の遠くなる程昔、自分達が「別の自分」として生きていた時に体得した技を駆使してまですることか、と。

普通の人々には一見すると白熱したババ抜きだが、自分達の動体視力で見るとカードを抜いたり消したり飛ばしたり合間で軽い拳が行きかったりと忙しない。それらを全て顔色一つ変えず一瞬一瞬でこなしているのだ。暗器や毒の類が飛び交ってないだけマシと言えるかもしれない。
そんな静かな攻防を繰り広げていた三人は、一拍顔を見合わせた後、同時にこう答えた。


「負ければ地獄のフルコース」と。


「…何、その地獄のフルコースって」
「よう聞いてくれた祭。これには海より深い事情があるんや…」
「負けた奴が特製栄養ドリンク飲まされるんだし」
「あらら一言で説明されてもた」
「特製栄養ドリンク?」


花笠と宮比がその言葉を聞いて自然と中央の怪しげなコップに目を向ける。
なんだか茶色みの強いその液体は、とても近寄りがたい空気を放っていた。
絶対、美味しく、ない。


「わのリンゴジュースと吉野のスダチ絞り汁、三河の味噌を入れて、あと色々混ぜたらこんなことに…」


そんな製造法知りたくも無かったが、訥々と雪森が語ってしまった。
話によると悪戯半分で作り出してしまったそうだが、肝心の味見の段にだって全員が腰を引いた。
作っている最中は楽しかった。でも、いざ結果を目の前に出されると冷や汗しか浮かばない代物が出来あがっていたのだ。


「お馬鹿さん…」
「う、うわぁぁほんな目で見んとって若!わい凍えそう!」
「くわんねの?」
「たんげ勇気がいる…なげるんもいたわしぃしな…」
「俺ら…なんてどえりゃあおそがいもん作ってしまったんか…」
「禁断の魔術やで…!さぁこの場に来たからにはおまはんらもこの闇のゲームに参加…」
「「お馬鹿さん…」」
「ついに祭まで冷たい目を!?」


カードを手に突っ伏する三人。


「あ、」
「あ?」
「あ!」


その衝撃でまさかコップが転げて恐ろしい液体が襲いかかってくるなんて…誰も予想していなかったのであったたた…。



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