阿波まとめ | ナノ
09.夢主のピンチを助ける七年1
「あちらさんはおめぇを大層邪魔に思ってるらしくてな…首尾が良けりゃあたんまり報酬も弾んでくれるってぇ話だ」
珍しくも見世から出て、近くの小間物屋へと足を運んだ私は、建物の間にある狭い道で三人の男に囲まれてしまっていた。
どれも無精髭を雑に生やした顔に下卑た笑みを浮かべ、一目で荒くれ者と分かる風体だ。私はそんな彼らを見て、溜息を吐きたくなった。
私が暮らす見世は遊女達の宿でありながら風遠しはいい方だ。だが、職業柄どうしても淀んだ空気は漂い、知らず溜め込んでしまう。そんな見世から半年に一度、発作的に飛び出したくなってしまう。
本当はもっと遠く、それこそかつての様な旅に出てしまいたいのだが、今の私にはそれが出来ない理由がある。
それを主様も承知しているから、私が一人で出歩くのは大抵見逃されていた。小鳥の籠を開け離していたって、その小鳥が出ていかなければどうということはないのだ。
そういう経緯で今回もふらりと外へ出たのだが、やはりそういう街なのであまり見世の中と変わらない。私は少しでもいい空気を求めて、常の通りここで働く人々向けの商品が並ぶ小さな小間物屋へと足を向けたのだった。
だが、そこへ行く途中で初めて供を連れて来なかったことを後悔した。
突然現れた男達によって傍の通りへと乱暴に押し出され、尻餅をついた私を見下ろして、そして今。
男達は私を害するよう頼まれたのだと笑っている。恐らくあの遊女屋だろうな、と最近強引に拡大している店を思い浮かべた。
「それにしてもなァ、おめぇ、まるで本物の女みてぇだな」
「肌なんてお高い姐さん連中みてぇに白いじゃねぇか。兄ちゃん、あっちはついてんのかい?」
ギャハハ、と笑う男達に苦々しい思いが込み上げる。
幾らそういう見世に住んでいるといっても、私は男で、それも舞手だ。舞は案外体力を使う。毎日の稽古は勿論、狭い空間で足を萎えさせてはならないと積極的に中庭などを散歩するようにしているし、実は筋肉が付かないものかと室内でこっそり身体を鍛えたりもしている。
それ程しても生来の体質かまったく筋肉は付かず、長い髪と薄暗い見世での生活で白い肌、そして母親譲りの顔が相まってまるで女のような見目なのだ。
私の愛しい一人息子が私を「母さま」と呼ぶのも、そのせいに違いない!
「あんまり驚かしてやるなよ、ほれ、ガタガタ怯えちまって可哀想じゃねぇか」
「へへっ、おめぇの目が一番怖ぇってぇの」
「どうせヤっちまうんだから一緒だよな?な?俺に味見させてくれよ」
「お前、そんな趣味あったのか!」
「こんな別嬪ならついててもかまわねぇ。どっからどう見ても女じゃねぇか」
さて、無意識の内に私の神経を逆なでしてきたこの男共をどうしてくれようか。これでも幼少時は狩りや剣稽古をしていた身だ。三対一とは鈍った私の体には大分キツいが、これを乗り越えた暁には息子が「凄いスリル〜!父さまかっこいい〜!」と言ってくれるかもしれない。そう考えて私が滾った瞬間だった。
「待てぇい!」
「だ、誰だ!?」
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと俺を呼ぶ…!正義の戦士、四国レンジャー推っ参!!」
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