阿波まとめ | ナノ 10.妖怪パロ2



結局大地は川辺で獣に追われていたキミコを保護しただけであると判明する頃には、夕暮れに辺りが赤く染まっていた。


「ご馳走様でした!」
「お粗末様でした。八左ヱ門、椀はそいの手桶に入れとけ」
「うん!」
「最上さん最上さん、狸汁美味かったよ?美味かったけどな?複雑な気持ちになるのは何故でしょうか?」
「吉野ーこの茶っ葉いい匂いやなー」
「…うん…気にいったならええん…」


がっくりと肩を落とす吉野を他所に、椀を空にした客人達をにこにこ眺める最上。
今日は思いがけない騒動もあったが、お客がいっぱいというのは中々嬉しいものである。
そう思っていると、件の学園の一年生で、竹谷八左ヱ門と名乗った少年の肩にしゅるりと長い物が上った。


「あ、キミコ!もう良いのか?」


騒動の大本、件の迷子キミコちゃんである。


「大地の薬はよっぐ効くからな」
「目立った傷も無かったし、擦り傷ぐらいならね」


思いの外人外である自分達に順応の早かった八左ヱ門と話し合った結果、手当てをして目を覚ますまで、と庵で静養していたのだ。
これ以上遅くなるようならと内心心配していたのだが、丁度良く起きてくれたものだ。


「ハッチの先生が心配しとるじゃろし、近くまで送ってったろか」
「ハッチじゃないです!」
「丁度今日はええ風が吹いてっし、俺が風で送るべ」
「風?」
「吉野は夜に駆けると煩いからな。八左ヱ門、そうしてもらい」
「うるさないわ!お囃子は仕様です!ほれハッチ、外へ出た出た」
「う、うん?」


よく分からなくて首を傾げながらも外へ押し出された八左ヱ門とキミコの前に、部屋の奥から大きなヤツデの葉の形をした赤い団扇を取って来た最上が立った。


「これで学園の前までひとっ飛びだず」
「それは?」
「天狗の羽団扇…もどき?」
「もどき!?」
「おまはんほれでたまに狩りしよるもんな」
「どうやって!?」
「あれは怖い…いや、よそう。思い出すと指先の震えが止まらないんだ…」
「いったいどんな光景なの!?」


がたがたと震える二人に思わず突っ込んだ八左ヱ門だが、にっこり笑む最上を見て口を閉ざした。
まだ学園に入学して間もないが、これが大人になるってことかな、と周囲が予想してない所で大人の処世術という階段を上ってしまったのだった。

そんな八左ヱ門の周りに、急にふわりと風が起こる。


「え?」


足が浮いた、と思った瞬間、びゅんっと地面が一気に遠くなった。


「うわぁぁぁぁ!?」
「じゃあな八左ヱ門ー!」
「着地には気ぃつけーよー!」
「もう迷子になるんじゃねっぞー!」


手を振ってくれる三人が豆粒ほどになったと思った次の瞬間には、どすん!と地面に尻餅をついていた。


「え、え?」

「八左ヱ門!?何処行ってたんだ!」
「探したんだよー!」
「捜索隊呼び戻して来るっ」


目を白黒させて暫く唖然としていると、門の外の音に様子を見に来た先生や先輩達が駆けよって来た。
一様に安堵の色を浮かべる顔を見回して、肩からしゅるりと首をあげたキミコと目を見合わせて。


「す、すっげぇぇぇ」


その後事の経緯を話した八左ヱ門は、こってりと教師達に絞られることになる。
だが報告する際、出会った妖怪達の事は「親切な山人」として話した。本当の事を話しても信じて貰えないかもしれないし、何より彼らを騒ぎの中に置きたくなかったのだ。


(また会えるかな?)


今度はお礼に自分の宝物を持って行こう。もしかしたら、友達になれるかもしれない!
反省文を書きながら、八左ヱ門はわくわくと目を輝かせたのだった。








「あれ、なんや悪寒が…」
「僕も…」
「新たな騒動の予感がしたっず…」



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