阿波まとめ | ナノ 10.妖怪パロ1



「最上ー!言よった茶ァ持って来たったでー」
「おーよく来たなー。ゆっくりしてけ」


とある緑深い森の奥。
小さな庵でのんびりと暮らす天狗の最上は、友人の声に薪割りをやめて振り返った。


「…吉野?」
「なん?」
「お前、尻尾二股になっだっげか?」


庵へ出入りするためにそこだけ均した道の上に立っていたのは、確かに友人の吉野だ。
狸の妖怪である吉野は丸い耳と、もふもふの長い尻尾を持っている。今日も複雑に巻きつけるような装束の合間から尻尾がふさっと出ているのだが…その数が一本多い。しかも色も違う。いつも見ているこげ茶の尻尾の横で揺れているのは、濃い灰色の毛だった。
首を傾げる最上に、吉野は苦笑してくるりと反転した。


「ちゃうちゃう。これはほれ…こいつや」
「あれま」


吉野の腰の辺りにぎゅうっと貼り付いていた、小さな人間の子供。どうやら増えた尻尾は、この子供の髪の毛だったようだ。


「来る途中で迷子になっとん見つけてな。面倒な事になる予感がしたけん置いてこ思たんやけど、離れへんくて…」
「面倒な事に…?」


基本的に子供好きな吉野が面倒とはどういうことだろう?
気になってひっくひっくと泣く子供を観察して、最上はすぐに気付く。


「ああ、この子、あの学園の子か」
「そや。な?面倒事な臭いがぷんぷんするやろ」


最上が暮らす山からそう遠くない位置に、(自分達の感覚で)最近出来た学園。
忍者の学校らしいよ。ちびっこがわらわらしとるな。食堂の飯が美味いぞ。庵でひっそり暮らす最上の元へも、色々な話は聞こえてきていた。
その中でも何度も話題に上るのが、あの学園の生徒が起こす数々のトラブルの話だ。
どうやら一人二人じゃなく、生徒達全員が大なり小なり騒動の元となっているらしい。それらの珍事件は好ましいものとして見聞きした妖怪仲間達の酒の肴となっているが、全員が「でも直接は巻き込まれたくないなぁ!」と笑って結論を出していた。
その騒動の元の一人が、今目の前に…。


「なるほど。そいづぁ間違いなく騒動が起こるべ」
「おった所で火ぃでも焚っきょったら獣も来んし、夜までには迎えが来るやろって言うたんやけどなぁ…」

「ぼ、僕は、キミコを探すんだ…っ」


それまでうぇっとしゃくりあげていた少年が、少しは落ち着いたのか巻き付けていた手を離して吉野から離れた。
大きな目からぼたぼた流れる涙を止めようと擦るたび、赤くなっていく目尻が痛々しい。


「ああ、ほれ、泣くんじゃねっず。こいづで抑えて鼻もかめ」
「ううっ…チーンッ」
「最上さん、それ私が置き忘れてった手拭いデスヨネ」
「きちんと洗濯してあっから」
「デスヨネー」


がっくりと肩を落とす吉野を他所に、ようやく涙を止めた少年が恥ずかしそうに手拭いを握って「ありがとう…」と囁くように告げた。
それを聞いて最上も吉野も笑みを浮かべた。騒動の元と予感していても、子供は可愛いものだ。


「で、キミコて誰だ?もしかしてまだ迷子の子がいるっけ?」
「いや…ほれがなぁ」
「先輩から世話するように言われてたのに、ちょっと目を離した隙にいなくなっちゃったんです…キミコはまだちっちゃいから、僕がちゃんと見ててあげなきゃいけなかったのに…」


ずぅぅん。最上の問いにまたもや泣き出しそうになった少年が暗雲を背負う。


「おめーよりちっちぇのけ。んだら早えとこ探した方がいいな」
「いやいや、最上、ちゃうねん」
「違え?」
「キミコってのは…」

「見て見て二人ともー!そこの川辺で拾ったー!」


吉野の声を遮るように、楽しそうな声が響いた。
全員が釣られる様にそちらを見れば、道の先から歩いて来る肌の黒い人間…ではなく川男という妖怪の一人で、最上達の友人でもある大地の姿があった。
手をぶんぶんと振り回している男の姿を見て、唐突にふるふると震えだしたのはこの場で唯一の人間の少年。


「き…」
「き?」
「キミコォォッ!!」


叫ぶなり大地に走り寄る姿を目で追いながら、最上は首を傾げた。


「キミコってのは大地のことだったんけ?女の子の名前かとばっかり」
「ちゃうちゃう。キミコってのは…あれや」
「ん?」


呆れたように吉野が指差した先…それは大地…ではなく、大地の振り回してない方の腕の先。
灰色の紐に見えたそれは、よく見れば目を回した青大将の子供である。


「ぎゃぁぁキミコがぁぁぁ!」
「え!?ちびっこどうした!?」
「キミコを振るなぁぁ、ぁ…?……うわぁぁんなんだかすっごく冷たいぃぃ!?」


泣きながらぽかすか殴って来る人間の子供に慌てる大地が蛇を上下して、更に少年が泣き喚く。
そんな阿鼻叫喚の地獄絵図を眺めて、吉野は悪い予感が当たったと溜息を吐いた。


「これはタイミングがええんか悪いんか」
「見つかったからいんじゃねえべか?」
「ねぇちょっと二人ともこれどういう事態!?」
「ぎゃああこっちの人達には羽と尻尾が生えてるー!?」
「「今更!?」」



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