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04.七年が委員長時代の委員会風景2



用具倉庫の前まで行くと、そこには葛籠に腰かける留三郎と翼を羽ばたかせる吉野が談笑する姿があった。
留三郎は頬こそ少し腫らしているものの、皮も剥けておらず血も流していない。目を丸くする作兵衛を他所に、先輩二人が声をかけた。


「よっちゃーん、おかえりー」
「おーただいまー」
「よしくんその背中の翼どうしたん?かっこいい」
「ふふふ、よう聞いてくれた六甲。実はおつかい先で騒動に巻き込まれてなー。戦利品なん」
「でっかい鳥の翼やね。本体は?」
「今夜の夕飯や!」
「おおお鳥鍋!?」
「今夜鳥鍋!?」
「ふふふ…ちなみに今夜の食事当番は平野くんです」
「絶対にうどんやー!」
「確実にうどんやんかー!」


崩れ落ちた六甲と葵に意地悪そうな笑いを見せる吉野は、もうすっかり普段のそれだった。
先ほどの怒りがまさか夢だったのかと思わず固まっている作兵衛に気付いたのか、翼を降ろした吉野が手招きした。


「作、こっちおいで」
「…っ」
「何もそんな泣きそうな顔しなくても…ほら留、作に渡してやってくれ」
「はいはい。ほら作兵衛、土産だとさ。遠慮なく貰っとけ」


ぎゅっと拳を握って俯いてしまった作兵衛に困ったように眉を下げた吉野。
そんな先輩から袋を受け取った留三郎は、そのまま作兵衛に持たせて袋の口を解く。
中には、黄色い金平糖が入っていた。


「あのな、作」


かけられた声に呆然と顔を上げると、葛籠の上に座った上級生三人がまったく同じ金平糖を食べながら笑っていた。


「作を怒ったのは、作が毒のついた千本を素手で触ろうとしたからだ。慣れない内は手袋必須、これは用具委員会の鉄則だ。授業用の毒なんて軽くて解毒剤も用意されてるが、万一ということもある。それでなくとも俺達の扱う備品は危険な物も多いから、注意や予防はしすぎるってことはない」
「作兵衛みたいなヒヨっ子は特に冷静になるってことが難しい。慌てそうなときは一度周りをよく見ることだよ」
「それで留くんが怒られた理由は、」
「六甲先輩、俺から言います」


「そもそも作兵衛の傍に毒がついたもん置いとくってことからして俺が悪かったんだ」


上級生は下級生を守る義務と責任がある。これは普段の授業や生活での教えだが、それは委員会中にも言えることなのだ。
下級生はまだ何も知らない、それこそ卵。上級生は自分達が先輩に教わったように、後輩に教えて、それを吸収して『習慣』にするまでの間守っていかなければならない。

作兵衛が毒を扱いなれておらず、かつ冷静になる『習慣』が出来ていないことを知っている留三郎は、起こりうる事態を想定して葛籠を置く位置を注意すべきだった。


「更に、作が咄嗟に武器に触れようとした時の判断が甘い」
「制止の声だけじゃなく、苦無を飛ばしてでもその場に留めるべきだったね」
「多少怪我しても、耐性の出来てない毒より遥かにマシだし」


次々と上がる声に、今更ながら冷やりとした。
次いで、申し訳なさが込み上げてくる。


「…すいませんでした!」
「俺も、」
「いえ、俺が不注意なのが原因なんで!先輩、俺に毒のついた武器の扱いについて教えてください!俺、今度は上手くやります!!」


ぐっと先ほどとは違う様子で拳を握った作兵衛の、燃えるような瞳を見て留三郎は「…おう、任しとけ!」と胸を叩いた。
それを見ていた三人は、後輩達の様子に満足そうに笑って金平糖を齧る。


「さて、腹減ったし帰るかー」
「え、苦無と千本は」
「全部終わった。あと桶と葛籠直してーこっちに来るまでに土塀も仮埋めしてきた」
「あ、こっちもアヒルボートの修繕と中庭周辺の穴塞いできた」
「ついでに吉野先生への報告も済ましてきたから、そのまま帰れるよ」
「いつの間に!?」
「まぁまぁ、細かいことはいいだろ。作も留も一緒に夕飯食おうぜ!今日は鳥鍋うどん!」


自分が向かった時にはまだ大量にあった苦無と千本、それにボートだって修繕途中だったはず。まるで狐か狸に化かされたかのような事態に、作兵衛は金平糖を持っていない方の手で頭を押さえた。


「食満先輩ぃ…」
「諦めろ。そういう人達だ。気分で作業時間が左右されんだよ」
「…二年目にして、入る委員会を間違えた気がします」
「…俺もそうだった」


でもな、何処もこんなんだ。
留三郎がぽつりと漏らした言葉のせいか、なんだか楽しそうに今夜の夕飯の話をしている三人を見たからか…作兵衛は、来年も用具委員会に入るんだろうな、と諦めたように溜息を吐いた。


end.



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