阿波まとめ | ナノ
04.七年が委員長時代の委員会風景1
快晴の下、木槌の音がカァン、カァンと小気味良く周囲に響き渡る。
しかし道具を操る二人はどうにも爽やかさとはかけ離れた雰囲気で今自分達が修理しているボートの穴を睨んでいた。
「…なぁ六甲くん、あてにはこれ、どう見てもバレーボール痕に見えるんやけど」
「僕にもそう見えるけん、見間違いやないよ」
「だよね」
「こんなくっきり綺麗に丸い穴開けるなんて…奴らの仕業かいな?」
「バレーボールってとこで大分確信はおます」
「氷ノ山先輩!御陵先輩!」
不穏になってきた空気を裂くように、高い声が二人を呼んだ。
瞬時に先ほどまでの禍々しい何かが霧散し、いつも通りの表情で振り返った二人はさすが上級生である。
「作くん、お疲れ様。苦無の点検は終わった?」
「留三郎に報告しに来るよう言っておいたはずだけど」
ころころと転がるように駆けてくるのは、まだ二年生になったばかりの用具委員、作兵衛である。残念ながら新入生から人員を確保できなかった用具委員会では、今一番の最年少だ。
そんな可愛い後輩に、戯れだとはいえ殺気を当てるのは危ない。
「食満先輩が…っ」
「何があった」
「食満先輩が生皮剥がれた後全身に塩を塗られて海に沈められますー!」
「よーしどうしてそうなったのか一旦思考整理しようか」
「この歳で中々いい制裁方法を思い付くね。それ対体育委員会で採用しよう」
「うん、あおくんも一旦思考整理しようか」
後輩の肩に手を置いてしゃがみこみ、目線を会わせて安心させるように頭を撫でる六甲。
それだけで作兵衛の混乱も大分収まったようだが、まだ何処か焦ったようにそわそわと体を揺らす。そんな後輩を誘導するように六甲が優しく声をかけた。
「まず作くんには今日、模擬戦で使われた苦無の点検と錆落としを頼んだね」
「は、はい」
「留三郎には毒が塗ってある千本の洗浄と手入れを任してたはずだけど…それがどうして海に沈められるなんて面白い展開になったのさ?」
「…俺が…俺が悪いんです」
作兵衛は先輩二人の落ち着いた様子に、俯きながらもなんとか事情を説明し始めた。
いわく、点検中にうっかり苦無入った葛籠を倒してしまい、傍にあった千本入りの葛籠も共倒れして結構な惨事になったなったらしい。あまりのことに留三郎の『触るな!』の声も届かないほど慌てて、混ざった武器を分けようとした作兵衛。
「とにかく早く元通りにしねぇとって思って…そしたら阿波先輩が」
「よしくん?」
「明日までおつかいじゃなかったっけ?帰ってたんだ」
「翼を背負った阿波先輩が、空から降ってきて」
「何それかっこいい」
「何それこわい」
『馬鹿野郎!』普段からは想像も出来ないほどの剣幕で怒鳴られて、作兵衛は武器に伸ばした手を引っ込めた。
どうしよう、怒られる。いや、この体中がビリビリする感じ…まさかこれは先生が言っていた殺気というものなのだろうか?
だとしたら…殺される?
『いっ!?』
『お仕置きだ』
作兵衛が目をぐるぐる回して今にも泡を吹きそうになった瞬間、頭にドカンと衝撃が走った。
あまりの痛みに頭を押さえていると、後でばきっと音が鳴った。はっとして振り向いた先には今の作兵衛の様に頭を押さえる留三郎と、仁王立ちした吉野の姿。
『…作』
『は、はい!』
『六甲と葵呼んでこい。俺は留と話がある』
『でも、』
『行け!』
『…っ』
吉野の大声に押し出される様に、作兵衛は駈け出した。
そして言い付け通り二人を呼びに来て、今、ということらしい。
「このままじゃ俺のせいで…食満先輩が……陽の光も届かぬ海の奥底に!」
「作くーん、帰っておいで。それに、留くんが怒られるのは当然だよ」
「えっ!?なんでっすか!」
「だって…ねぇ?あおくん」
「なぁ?ま、とにかく呼んでるんだろ。行こう。留三郎が無事かどうか自分の目で確かめるといいさ」
葵に手を引かれ、戸惑いながらも来た道を引き返した。
吉野は怖いが、それ以上に留三郎がどうなったか心配だった。
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