阿波まとめ | ナノ
節分1:豆をまく
「節分ですね、さぁ皆の者豆を持て」
七年生がずらりと升一杯の豆を持ち並ぶ姿は、普段見掛けない分もあって圧巻だった。
その光景を初めて見た五年生達は、目を丸くして傍らの六年生達を仰ぐ。説明を求める視線に、答えたのは立花だった。
「去年我々も教えられたことだが、どうやらこれは恒例行事らしくてな…毎年この日、七六五年で豆まきをするそうだ」
「な、なんで下級生に交じってやらないんすか…?」
よくやった、よく聞いた、ハチ、お前の勇気を忘れない。
同級生達の無言の声援に「お前ら援護しろよ…!」という目を向けるが「無理!」と即答される。目で。
そんな竹谷の問いに答えたのは、妙に福々しい女の面を付けた四足歩行からくりの頭部に豆を注ぎ込んでいた阿波。
「これはちょっと危険すぎてな、先生と前の先輩方から四年以下禁止令が出ている」
「……きんしれい」
「さぁお前達も弾…豆を持て。初参加で丸腰は死にに行くようなものだぞ」
いったいそれは、自分達の知る豆まきなのだろうか。
がたがた震える五年の中、山と積み上げられた大豆入りの升を一番最初に取ったのは鉢屋だった。
「…要は公然と先輩方を相手に出来る日ってことですよね」
「………まぁ、そういう場合もある。程々に頑張れ」
鉢屋の挑戦的な言葉にふいと目線を逸らした阿波は、からくりを従えて七年生の列に戻って行った。
「なんだあれ、私達には無理だということか!」
「ま、まぁまぁ」
「これは侵入者の追い出しも同時にするからな。今年は初めてだから仕方ないが、来年からはお前らも戦力だ。じっくり見てどんな感じか知っとけ」
「え、潮江先輩…もしかして追い出しって…」
「尾浜、い組なら分かるだろう?さあ文次郎、そろそろだぞ」
「おう」
七年の傍に歩み去る六年を見つめながら、尾浜と久々知、それに面で分かりにくいが鉢屋もザッと青褪めた。それを見た不破と竹谷が首を傾げる。
「どうしたの、三郎」
「雷蔵…先輩方は『豆を持たないと丸腰』だと言ったな」
「ああ、そうだけど…え、もしかして」
「え、何、なんだよ?」
「ハチ…つまり今日はどんな侵入者が来ようと、豆でしか対応出来ない日だ…!」
「………はぁ!?マジかよ、そんなの指弾の手練でもないと…先輩、本気で、っていねぇ!」
事の真相にようやく思い至った竹谷が目をむいて先輩の方を見るが、いつの間に消えたのかそこには誰もいなかった。
残された大量の豆を目の前に、五年は唾を飲み込んだ。
誰だ、こんな馬鹿な行事をやりだしたのは!
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