阿波まとめ | ナノ 四、弟について



弟の巣立(すだち)は歳が三つ違いだった。母の若芽が嫁いできたのが俺が四つの年なので計算が合わないのだが、特に気にはしなかった。

「兄様、また今日もたんれんでございますか?昼寝から目覚めると兄様がいないので、巣立は心底心配いたしました。巣立の前から断りなくお消えにならないで下さいと、さんざんお願いしたではありませんか」
「すまんすまん。おまはんよう寝とったけん起こすんも悪うてなぁ。父上が久しぶりに鍛錬をつけて下さるゆうんで、道場に行っとったんよ。ほら、兄ちゃんここにおるけんもう怒らんで。巣立は笑っとった方が若芽さんに似てべっぴんさんじゃ」
「美しいのは兄様です。巣立は兄様の弟なのですから、兄様に似ているのです」
「…巣立、おまはん大きぃになったらえらい女たらしになりそうで、兄ちゃんちょっと心配やわ」
「?巣立は兄様いがいにきょうみありませんのでご安心下さい。それよりも父上です。父上は兄様をひとりじめしすぎではありませんか。巣立は一日に少ししか、兄様といられないのに」
「そーか?でも全部稽古やしなぁ…」
「それに父上は、巣立が何度申し上げても兄様と一緒に鍛錬を受けることをお許し下さらないのです。…巣立はもっと兄様といたいのに」
「危ないけん、巣立がもうちょっと大きぃになったらな。あとちょっと辛抱しぃ」

弟は兄の贔屓目を抜きにしても可愛いと思う。
実際容姿は若芽に似て美しく、将来はさぞ美しい若者に育つだろうと周囲に期待させた。そして物事に聡く、言われたことを次々と吸収する、よく出来た才児であった。
だがその反面、人の好き嫌いが激しいのか母の実家伝手で寄こされる乳母を何度も追い返すという困った所もあったが。

そんな弟だが、どういうわけか俺にはよく懐いてくれている。
俺が屋敷に忍び込むたびに真ん丸な瞳で見てきて、喋れるようになってからは兄様、兄様と幼いながら達者な口で呼び、何処へ行くにもついて来ようとする弟。
だけどきっと大きくなったら「俺の着物と兄貴の褌、一緒に洗うなよ」なんて言って容易に撫でることも許してくれなくなるに違いない。確か俺に稽古をつけてくれている父の部下の一人が、娘にそんな風に言われたと落ち込んでいた。
可愛い弟にそんな手酷く拒絶されたら、きっと俺もしょんぼりする。俺は後々を考えて弟を構い倒した。



[11/02/12]



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