阿波まとめ | ナノ 三、母について



父にはもう一人妻がいた。若芽(わかめ)という女人だ。

「金時様、夕立ちでございます」
「若芽さん、わいは吉野じゃよう」
「金時様、あちらに虹でございます」
「あれ、ほんまや。きれーやねぇ」

彼女は×××様の家臣の一人から降嫁された武家の女人で、古くは××の血も引く高貴な姫なのだとか。
忍如きが稀な扱いを、と驚くなかれ。武家娘として一度よぼよぼのじーさんに嫁ぎ、そこで悪くされて身体と心を病んだ末の厄介払いだった。
俺は彼女の住む少し離れた小さな屋敷にこっそりと通った。数人の奉公人しかいないぼろぼろのその屋敷は、いつだってしんとしていた。

俺は彼女のいつでも凪いだ海の様な瞳がぼんやりと綺麗なものを探すのが好きだった。
いつ訪れても何故か父と間違われたのだけど。



[11/02/11]



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