阿波まとめ | ナノ 二、母について



その父の幼馴染である、筑和(ちくわ)というくノ一が俺の母だ。

「おまはんは吉野川からどんぶらっこっこて流れてきたけん、『吉野』ゆう名前にしたんよ。綺麗な名前やろ」
「ほんまに!?わい、泳がれへんのに流れちょったんかー…」
「今は泳ぎ方ぁ忘れとるだけやで。よっしゃ今から母(かか)さんと一緒に練習がてら、魚獲りに行こか」
「滝つぼに落とすんはかんべん!」
「ばれたか!」

母はくノ一であることが信じられないほどに、ほがらかで闊達な人である。
父の帰らぬ家で母と二人暮らしていた俺は、大体のことをこの人から教わった。話すこと、笑うこと、喧嘩すること、仲直りすること。
忙しい父が稽古をつけられない日は、幼い俺を川や海に連れて行ってくれた。そこでも泳ぎ方、魚の獲り方、物々交換の仕方など、色々なことを教わった。稽古は辛かったけれど、合間のそのご褒美を思えば頑張る事が出来た。

泳ぐのが大好きな母はくノ一なのによく日に焼けている。
小さな頃は抱きしめられるたびに、潮で少し痛んだ明るい茶色の癖っ毛が俺の頬に垂れて、くすぐったくて何度も笑った。



[11/02/10]



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