阿波まとめ | ナノ
七年vs上級生



――前回までのあらすじ。

突然の学園長の思いつきで、七年生対上級生の合同実技授業が行われることに。

ルールは以下の通り。

・試合形式は一対一、相手を降参させるまでのデスマッチ
・七年生は事前に引いたくじで指定された武器のみの使用
・七年生はくじに載っていた数の武器しか使えない (例・武器:刀/上限:1)
・素手で戦うのは可
・七年生は相手を降参させる際、指定の武器を所持していなければ失格(※この事を上級生は知らない)

七年生は悲喜こもごもの結果を生み出したくじを経て、上級生は緊張感でぴりぴりしつつ、今日という日を迎えたのだった――。





「なんて、どうかな?」

「わかりやすくて良いと思います!」

「それより麗葉先輩、試合はよろしいんですか?」

「彦、ありがとう。庄、心配しなくても大丈夫だよ?そう簡単に負けてなんかやらないからね」


麗葉は楽しげに笑って、彦四郎と庄左ヱ門の頭を優しく撫でた。
此処だけ、別空間のようにほのぼのした空気を醸し出している。

ちなみに此処に居るのは言わずもがな学級委員長委員会。今回の司会を務める一年は組黒木庄左ヱ門と一年い組今福彦四郎、そして実技授業に出席するはずの七年生・武蔵麗葉である。

下級生は今日は休日。学級委員長委員会の二人は運営としての参加が義務付けられているし、下級生も自由に見学できる。合同実技授業と銘打ってはいるが、実質は大会に近かった。


「それもですが、行かなくてよろしいんですか?」

「ん…、そうだね。そろそろ行くよ」


ちょっと残念そうに笑うと、麗葉はもう一度二人の頭を撫でた。


「先輩頑張ってください!怪我しないでくださいね!」

「大怪我させないでくださいね」

「ふふ、わかってるよ」


後輩達の言葉に穏やかに笑い、麗葉は一瞬で姿を消した。


「麗葉あああ!」

「…あれ?」

「七年生の阿波吉野先輩じゃないですか」

「あ、お前ら、麗葉見なかったか?」

「麗葉先輩なら、さっきまで此処にいらっしゃいましたけど…」

「ちょうど今出ていかれました」

「だああああ!俺の鼻眼鏡持って何処行ったんだ…!」


orzの形で崩れ落ちた吉野におろおろする彦四郎。しかし庄左ヱ門は冷静に言った。


「先輩、もう始まりますけど大丈夫ですか?確か第一試合ですよね?」

「……」


みるみるうちに青ざめていく顔。吉野は砂埃を立てて走っていった。「麗葉あああぁぁぁ!」という叫び声が遠ざかる。


「僕らも行こうか」

「……そうだね」





「…お手柔らかにお願いします」

「今日はよろしくね」


いつもは笑んでいる顔を今は緊張に染めた後輩。笑いかけられても気は抜けないのか、表情は険しいままだった。

……まあ、仕方ないか。

後輩達の応援の中、教師の声が響く。


「それでは七年生・武蔵麗葉対五年生・尾浜勘右衛門……始め!」


自然体のまま動かない自分と、攻めあぐねる勘。

ハンデのつもりで動かなかったんだけど……思わず苦笑する。


「ほら、おいで?」

「………」


覚悟を決めたようだ、勘の顔が変わった。

間髪入れずに飛んでくる分銅鎖。

指を犠牲にしたくはなかったので、数本の千本を苦無のように構えて錘を叩き落とす。


カキンッ


「じゃ、行くよ?」


目、見開いてよく見ておきな?

地面を軽く蹴った。


たんっ


一瞬で距離を詰める。驚いた顔が間近にあって、なんだか面白い。にっこり笑ってみせた。

左手には投擲する様に指に挟んだ千本。しかし投擲はせずに指を握りこぶしのように折り曲げる。強いて言うなら…簡易熊手みたいな感じ?

それで首を叩き、右足で足払いをかける。


「……っ!」


為す術無く右肩から倒れた身体にのしかかり、右手の一本に持ち直した千本を勘の首にひたりと当てた。喉がひくりと上下するのがわかる。


「勘、まだやる?」

「…いえ」


降参です、と紡がれた声。その瞬間、さっきまで無音だった校庭に歓声と溜息が響いた。

それに構わず立ち上がり、勘も起こしてやる。


「お疲れ様」

「…先輩もお疲れ様です」


勘の拗ねたような顔に、ちょっと吹き出してしまう。ますます憮然とした顔をする勘が可愛くて、頬が緩んだ。

ぽん、と頭に手をやる。


「随分扱いが上手くなったね」


ぼっと音がしそうな程真っ赤になった顔に、微笑んだ。…綺麗に見えると良いな、と思いつつ。





その頃の七年生+α。

「麗葉の勝ちか」

「当然だろ」

「しかしあっと言う間だったな」

「まあそもそも麗葉は速さに特化した一撃必殺が主流だし、普通じゃね?」

「そうなんですか!?」

「ん?知らなかったのか?」

「あいつ腕力体力はそうでもないけど、脚力は凄いんだよ。本気出されたらたぶんお前ら目でも追えないぜ」

「「「(どんだけ…!?)」」」



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