阿波まとめ | ナノ
歌わず忍びます!2



「おーいカイト、ヨシノー。ちょっといいか…って、いないのか」

がちゃりと自室の扉を開けば、そこに探し人達の姿は無かった。はてゴミ出しか買い物かと首を傾げていると、ぴこん、と起動しているPCが視界に入る。

「ああ、潜ってんのか」

元々PCソフトである奇妙な同居人達は、ネットの中に入る事が出来る。本来なら『帰る』と表現してもいいのだけれど、すでに奴らがいることが当たり前になっている今ではそれも何か違う気がする。
どちらか一方がいないことはあるけれど、二人一緒は珍しいな、とPCに近付くと…ぶうん、とウインドウが奇妙に波打った。

「うぉっ」
「わっ」
「おおっ」

不意に現れた男二人のタックルに、俺の体は耐えきれず床に沈んだ。がごん、という音と共に飛び散る火花。

「いっ」
「いったーい!もーマスター、そんな所にいたら駄目ですよ!交通事故が起こりますっ」
「お前らがいきなり出てこなかったら起こらない事故だよ馬鹿!重い!どけ!」
「よっと。ほれカイト、手ぇ出し」
「はい」

喚く俺を無視してさっさと起き上がったヨシノが、カイトの手を引っ張って起こし、俺も起こし「すまんかったなぁ」と苦笑した。カイトもそうだが、なんだかボーカロイドってのは感情が随分素直に顔に出るんだな。

「まぁケガもしなかったしいいけど…それより珍しいな、お前らが揃って出かけるなんて。何かやってたのか?」
「はい!それに珍しくありませんよ?たまに二人で出掛けてます」
「あ?そうだったの?何だよ何してんだ。まさか危ない事じゃないだろうな」

にっかにっかと満面の笑みのカイトに、疑いの眼差しを向ける。お前らは言うなれば俺の弟か子供みたいなもんなんだから、危ないことはガツンと言って止めさせるぞ俺は。
そんな俺の心中を察したのか、ヨシノの目が泳いだ。なんだ、やっぱり何か怪しいことやってんのか!?

「いや…大分前にカイトがな、俺に忍術教えて欲しい、って言いだして」
「僕もあんな風に戦えるようになりたいんです!特にウイルス…あいつら、前に僕がソーダアイス食べてたの分解したんです…!」
「よっぽど悔しかったんやろなぁ…涙目で迫って来られたら、ほりゃ自衛手段くらいは教えたらんと、と思って」
「なっ…」

ウイルスと戦う!?そんなの一歩間違えたら感染してお陀仏じゃねぇか!

「そんな危ない事は却下!絶対に禁止!ヨシノ!お前ももう危ないことカイトに教えんなよ!?」
「いやー…それが、な…」
「な、なんだよその泳ぎまくった目は…?」
「実は、結構筋が良かったんかそれなりに動けたけん、わいもついノリノリで教えてもうて…」
「ついさっき、侵入してきたウイルスを見事討ち取りました!ね、凄いでしょうマスター!」
「……は?」
「ええと、まぁ、そういうことで」

実戦デビュー澄ましちゃいました☆とか言いながらこつんテヘヘと一昔前の少女の様な動作をするヨシノ。
褒めて褒めて!ときらきらした目で見えない尻尾を振るカイト。
そういえばタックルの衝撃で気付かなかったけれど、二人はいつかヨシノが着ていた灰色の忍者服だった。
………つまり、もうがっつり危ないことやってました、と。

「………」
「マスター?どうしたんですか?マスターの隠しフォルダも守りましたよ!あの水着の女の子と白衣来た女の子がいっぱい写ってるやつ!」
「あああカイトそれはバラさんといてやり!言うたらあかん!隠しとうもんなんやけん!」
「秘密ですか!?わぁぁ僕秘密って憧れてたんです!僕とヨシノとマスターの秘密ですね!」
「主にマスターの秘密やけどな!」
「…カイト、ヨシノ」
「はーい?」
「な、なん?」

「お前ら一週間ネット禁止!次回曲もネタに決定!」

「え、えぇぇぇええ!?マスターひどーい!!」
「煩ぇなんならプリふん歌わせるぞ!」
「ちょ、それはやめ!」

俺の宣言にぴーぴーうぼあああと煩いボカロ達を一発ずつ殴って床に沈め、俺は深く溜息を吐いた。
その時俺は怒りのあまり、友人から聞いた奇妙な忍者の話をすっかり忘れてしまっていたのだった。


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プリふん→プリ/ティ/ふん/どし/☆/悪魔/レン



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