阿波まとめ | ナノ わっしょい!



「わーっしょい!わーっしょい!」
「な、なんや!?……吉野?」

讃岐が会計室を出た瞬間、周りを囲まれた。時代も忘れてすわ襲撃かと焦るが、声でどうやら旧知の人物だと言う事が分かり一気に力が抜けた。
どうして姿で分からないのかと言えば、それは周りを囲んだ全員がそれぞれ遊園地で見るような着ぐるみを着ていたからだ。ピンクの兎、赤茶色の狸、白い四角形。…最後は着ぐるみと言えるのかは分からないが。
そんな着ぐるみ隊が、ずざざざと残像を残しながら讃岐の周りをぐるぐる回る。吉野の声がするピンクの兎が先導して掛け声をあげ、それに後の全員が消極的に両手を上げながら続く。ちなみに四角形はにょきりと白い手足が伸びていて移動も安心である。

「わーっしょい!ほらお前らも!」
「わ、わーっしょい…」
「わっしょい」
「ええい声が小さい!もっと張り上げるように高らかに!」
「あぁぁもう!わーっしょい!わーっしょい!…うう恥ずかしい」
「わっしょい」
「おいそこの豆腐小僧やる気出せ!」
「豆腐が切れたのだ」
「阿波先輩、兵助は豆腐が切れると力が出ないんですっ」
「それなんてアンパ●マン!?」
「…どういうことなん?勘ちゃん達まで巻き込んでからに」

一連のやりとりで、誰が誰かはなんとなく分かった。讃岐が据わった目で問うと、その呆れた声に耐えきれなかったのか兎(阿波)以外の足が止まった。それに兎(阿波)も渋々と停止する。

「やぁ平野。このたびはおめでとうございます」
「ありがとうございます。よく分からんけど」
「お祝いの言葉を告げようと思ったら思わず赤い実弾けた。そう言ったら分かってもらえるか」
「正直吉野がアレってことしか分からんかった」
「ということで俺一人でお祝いも寂しいな、と思ってうろついてたら、途中で授業が終わったい組コンビに遭遇してな。巻き込んで今に至る、と」
「お前ら可哀想になぁ…」
「そんな目で見ないで下さい平野先輩…」
「阿波先輩に発見されたのが運の尽きでした」

まさか忍スキルを全力で使ってくる兎に襲いかかられるとは思わなかった、という四角形(久々知)と狸(尾浜)の言葉に、讃岐は「お前後輩に何しとん」と級友を平手で叩いた。
ぺちん、と軽い動作だったが、その瞬間兎(阿波)の頭が軽くへこんだ。次の瞬間低反発クッションのように戻って行ったが。

「平野、痛い」
「お前のはしゃぎようが痛い。ほれ、さっさと解放したり。んでなんぞ奢れ」
「限りなく薄い財布の命が今潰えようとしている…!ちょ、ぽんぽこ助けて」
「先輩ご馳走様です」
「豆腐がいいのだ」
「なんてこった祝いに駆けつけた者へこの仕打ち!奢らないからな!…で、でも寮でうどんパーティーの準備ならしてるんだからね!べ、別にぽんぽこ達も来てもいいわよ!豆腐はないけど!」
「吉野…お前…」
「な、何よ!別にアンタなんかのためじゃないんだからね!」
「びっくりするほどツンデレ似合わんな…」
「へーのばかぁぁぁぁ!!!!」

ぴーぴー泣きながら走り去る兎(阿波)。
たぶん寮では、着々とパーティーの準備が進んでいるんだろう。気付けば会計室を出てからかなりの時間が経っていた。恐らく阿波は足止め役だったのだろう。

「なんか巻き込んでしもて悪かったなぁ」
「いいえ、俺達お祝いしたかったですし。丁度良かったです」
「本当は普通にお祝いしたかったんですけどね」

呆れたような久々知の声に、尾浜と讃岐が噴き出すように笑いながら、寮に向けてゆっくりと歩き出した。
そんな狸と四角形と讃岐の姿を、未だ校内に残っていた生徒達が呆然と見ていたとも知らずに。



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