阿波まとめ | ナノ
青春迷子!



「留のプチ不運な様子が最近楽しくなってきて…新たな扉観音開きしちゃったらどうしよう。主に仙蔵くん的な扉」
「ふうん」

どういう流れでそうなったのかは思い出せないが、その日阿波と近江は廊下で立ち話をしていた。先ほど見かけたという後輩の不運ぶりを報告しながら楽しそうに笑う阿波に、近江はふと瞳に悪童の様な色をちらつかせた。

「じゃあ食満くんをはめてみる?面白そうな手、思いついたわ」
「ほんまに?え、何何、ちょっと聞かせてみ?」

面白い手、と聞いて阿波の顔が輝いた。顔を寄せる相手に、近江がこしょこしょと耳打ちする。
次第に阿波がなんとも言えない、まさに悪童そのものな顔になっていく。

「ほほう…それは何とも楽しげな」
「やろ?でもコストかかりそうでなぁ…」
「ああ、それか…」

近江の一言に、一気に落胆した阿波。彼は金のかかることは一切しない。それは前世からの付き合いで嫌と言うほど理解してしまっていた。
コストという巨大な壁を前にしては、この計画は中止するしかない…残念だが。

その後各々用事があると解散して、そこで話は立ち消えになったと思っていた。
…少なくとも、阿波の方は。





バレンタインを間近に控えたある日の朝、今年も憂鬱な季節がやって来た、と阿波は溜息を吐いた。
甘酸っぱい青春真っ盛りであるはずなのに、昔から女の子にチョコという物を貰った事が無い。毎年自分が手に入れるのは母から…ではなく、三歳年下の弟からだった。しかも手作りだ。美味しいけれどしょっぱい。な、泣いてなんかないんだからね。ちなみに母からは何故か要求される。や、やっぱり泣いてなんかないんだからね。
一度くらい可愛い女の子に「ほら、あげる」なんて微笑んで言われたい。

「ほら、あげる」
「…………」
「なんなのその顔は」

微笑んで手渡された可愛い箱を手に、阿波はあんぐりと口を開けた。
その後呆れたような顔をされ、ようやく再起動した彼はさっと目で箱を検分した。可愛らしいハート模様の箱は季節柄店頭でよく見られるもので、中身はチョコと予想された。…チョコ。湖滋郎が?
待てまだ早計だ。頭の中のアラームが鳴り響くまま、箱をゆっくりと持ち上げた。

「…耳元で確認しても時計の音はせんで」
「………」
「嗅いでも火薬の臭いはせんで」
「…と、いうことは、やっぱりこれは」
「チョコに決まっとる」
「え、ええー…」

どうやら本当にチョコらしい。
何故自分に渡すのか、というかチョコを誰かにあげる湖滋郎なんて想像もしなかった、ええ、これ夢オチじゃないの?
ぐるぐるする阿波を置いて、近江は「じゃあ」とだけ告げてさっさと教室に入って行った。





その日の放課後、後輩達の教室に突貫して「まさか湖滋郎…俺のこと…!俺がイケメンなばっかりに…!」と盛大に迷走した阿波。
そして後日、真剣に悩む様子の先輩を呆れながらも心配した食満によって解明された真実にほっとするやら切ないやらはめられた後輩ののた打ち回り様が面白いやらで複雑な阿波の姿があったとかなかったとか。





「あ、そうだ吉野君、ホワイトデーは三倍返しね」
「えっ」



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