阿波まとめ | ナノ
不思議な先輩
「留作」
漆喰を塗り直したばかりの壁が夕陽によって真っ赤に染まる頃、倉庫にて作業道具を片付けていた食満留三郎と富松作兵衛に声がかかった。
「吉野先輩…短縮して続けられると全然別の人になっちまうんでやめて下さいってば」
「別にええじゃろ、おまはんらが分かっちょれば。ってか、あー、一年はもういんどんやな。また会えへんかったわ」
「あああ、阿波先輩!?」
「なん?」
首を傾げる阿波吉野はいったいいつからそこに居たのか、倉庫の梁の上に座って後輩達を見下ろしていた。
富松はこの用具委員会OBに会うたび、複雑な思いを抱く。
まずこれは七年生全員に言えることだが、神出鬼没さが怖い。噂では五六年が総出で探しても教室はおろか別にあるらしい食堂さえ見つからなかったそうだ。
次もやはり七年生全員に言えることだが、方言が強すぎて時々意味が分からない。聞き返そうにも富松の性格から先輩相手にそれは難しかった。万が一それで機嫌を損ねて新作からくり装置のパーツにされたらどうするというのだ。
「作、今日もお疲れさま」
小さな後輩の慌てようから何かを感じ取ったのか、苦笑いしながら言葉を直し、梁を飛び降りた阿波。そのまま持っていた手拭いを後輩達の頭に落としながら倉庫を出ていく。
「平野が美味いって評判の団子を買ってきてたから幾つか奪…貰って来たんだ。ここは埃っぽいし留の所は臭いから、食堂に行こう。おばちゃんの淹れてくれる茶は美味いからな」
「ちょ、俺が臭いみたいな言い方やめてください!違うからな作!?俺の部屋は同室の伊作が薬を煎じるから少し独特な臭いがするだけであって」
「そういや伊作くん、最近会ってないけどまだ不運なのか?」
「相変わらずです。というか讃岐先輩の団子勝手に持ってきて…怒られるんじゃないんスか」
「ふふふ…抜かりはない。代わりに水を置いてきた」
「今すぐ謝りに行って来い!」
疲れたように肩を落としながらも阿波に続いて倉庫を出ていく食満に習い、富松も慌てて手拭いを握りしめて後に続いた。
謎が多すぎて怖い七年生だけれど、疲れたときに現れてはお土産や手拭いをくれたり、忙しいときには何処からともなく駆けつけて来て手伝ってくれたりする、そんな阿波を、食満と同じく富松も慕っている。
だからこそ、富松を前にして言葉を直すことが申し訳なくて堪らなかった。
「作、あまり考えすぎると頭爆発するぞ」
「ばばば、爆発!?それは七年生の秘密に踏み込み過ぎたら消されるとかそういう…う、うわぁぁ!」
「あ、待てそういうつもりじゃなかったんだ許せ後輩苛めとかじゃないけんその木槌を床に置きぃ留!一応わい先輩やぞ!?」
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阿波処女作。
立場弱ぇ(^^)
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