阿波まとめ | ナノ 2月8日といえば



いつも何かと騒がしい忍術学園。その日もやっぱり、どたばたと廊下を駆ける数人の姿が騒動の訪れを告げていた。

「どいたどいた!」
「やっぱり今年も来やがったか!」
「だから今年こそこんにゃくにしよって言ったのに!」

大きな声と音に何事かと振り返る者、窓から顔を出す者など、皆驚きで目を丸くする。
忍者を目指す者としてあるまじき足音を立てているのは神出鬼没な七年生、阿波吉野、青島三咲、博多躑躅の三名であった。
いつも唐突に出現する七年生が足音荒く走っているのにも驚くが、何よりも目を奪われるのは三人がかりで抱える大きなたらい。そしてそのたらいいっぱいに零れんばかりに主張する、白い何か。
二年以上はそれを見て「ああ、今年もか…」という目をしたが、一年生は訳が分からず「え?え?」と顔を見合わせた。

「よっしゃ撒けた。皆さーん!今年もこの時期が来ましたー!」
「例の物を用意して見事これに刺した奴には景品ね」
「その際のアクシデント、報復には一切責任を負わないので気をつけてくれよー」

きょろきょろと辺りを見回した阿波がゴーサインを出すと、青島と博多がたらいを下げて周囲に見せた。

「…豆腐?」

中味は、豆腐。
しかも相当、巨大な。
ぽかんとした様子の一年を見て、七年三人組はにやりと笑った。

「よい子のお前らも知ってる通り、今日は針供養の日。まがったり折れたりした針をこんにゃくや豆腐に刺して供養する日だ」
「で、どうせだから楽しくやろうってことで、毎年こうやって豆腐用意して俺らが持って走るんだ」
「首尾よく針を刺せた奴には麗葉特製のとっておき菓子やるから皆も頑張れよ」

「下級生にはハンデありだから、十分チャンスはあるぞ」との言葉に、お菓子が大好きな皆、とくにしんべヱなどは目を輝かせた。次の瞬間にはと蜘蛛の子を散らすように長屋へ針を取りに走る。

「転ぶなよー」
「阿波、来た」
「うおっ」

一瞬前まで阿波がいた場所に、深々と手離剣が突き刺さる。咄嗟に体をずらしたから良かったが、一歩間違えば足が縫い取られていただろう。

「これは…奴さん、本気だな」
「その通りです。先輩方」
「だ、誰だ!?」

ざっ、と塀の上に仁王立ちしたのは…五年い組の久々知兵助!その端正な顔はまさに仁王と言うべきほど、憤怒に彩られていた…!

「って驚いた風に実況するけど、実際かなり余裕ですよね」
「あ、ばれた?ぽんぽこも例年ご苦労さん。今年は蜜蜂ハッチも一緒なんだな」
「だから俺は狸じゃないですって。まぁ兵助がやる気なんで、程々に付き合おうと思いまして」
「俺も蜜蜂じゃねえっす。というかお願いだから誰かこの体制をツッコんで!」
「正直趣味かと」
「酷い!」

久々知の右に立つ尾浜は苦笑、左に縄でぐるぐる巻きにされて転がる竹谷は半泣きだった。しかも寝巻。きっと寝ているときに問答無用で拉致されたのだろう。
いっそ竹谷も豆腐に突っ込んで供養してやった方がいいんじゃないかと三人が同情の眼差しで見ていると、真ん中の久々知が吠えた。

「毎年毎年性懲りもなく豆腐を辱めて…恥ずかしくないんですか!」
「その感覚が恥ずかしい」
「だからこんにゃくにしようっつったのに」
「三咲は全力で豆腐を押してた気がする」
「博多も最終的にはノリノリだっただろが」
「結局全員がノリノリじゃないですか」
「ぽんぽこ空気嫁」
「嫁!?」
「狸でも嫁でもなんでもいいです。今年こそ、針だらけにされる前にその豆腐を頂きます!」

カッと目を開いて苦無と宝禄火矢を構える久々知に頑張れーと声をかける周囲。もうすでに毎年恒例の光景である。きり丸なんかは今年初めて見たはずであるのに、ちゃっかり賭けまで始めていた。
そんなギャラリーをちらっと見た三人は、おもむろにたらいを「よっと」と持ち直し

「よっしゃ、今年こそ念願叶えてみな」

途端、スッと消えた。

「あああ!?」
「ありゃ、逃げられたね」
「っていうかいい加減俺を解放しろ!」
「こ、こうしてる間にも豆腐が…ま、待ってろ豆子ぉぉぉぉ!!!!」

廊下での騒ぎを聞いて、駆けつけた教師が荒れ狂う久々知の姿に「またか」と呆れた声で呟いた。





「おいこの豆腐名前ついてるらしいぞ」
「豆子…阿波に勝るとも劣らないネーミングセンスだ…」
「うーん、おれ、後で祭と三河に兵助苛めんなって怒られる気がする」
「「どんまい」」
「人事にされた!」



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