阿波まとめ | ナノ
くまくま!
「二人とも、寒い中お疲れさん!腹減ってるだろ?これ食え」
雪がちらちらと姿を見せる夜。
草陰に身を潜めた食満と善法寺の頭上から、突然楽しそうな声が落ちた。
びくっと頭上を見上げる前に、目の前に見慣れた灰色が着地する。目を丸くする後輩達の前に阿波が差し出したのは湯気を立てる汁椀で、反対の手には用意よく箸が握られていた。
「…なんすか、これ」
「見ての通りの熊鍋です」
「いや、それは分かります。じゃなくて吉野先輩がこんな場所にこんな美味そうなもんを持って出てくるって辺りが予想外すぎてどうしたらいい伊作」
「えっ、僕に振るの?えーとえーと、そういやどうしたんですか、熊なんて」
「最上が獲ってきた。今晩の七年生は豪勢に熊鍋パーティーだ。で、いっぱいあったからこんな極寒の中隠れん坊大会とか可哀想な六年にお裾分けしようと思って」
「わぁ!やったね留さん、珍しくツいてるよ僕ら!」
「ってうか湯気!湯気で気付かれるから!何考えてんだアンタ、学園長の思いつきとはいえ一応実技なんだぞ?成績つくんだぞ!?」
「大丈夫。周囲に気配はないよ」
小声で騒ぐ食満達に、またも聞きなれた声がかかる。なんでこう七年生は気配なく現れることが出来るのか。
阿波の隣に膝をついた羽前が、穏やかな顔で笑って同じように湯気の立つ椀を差し出した。
「ほら、これは伊作の分」
「わぁ、ありがとうございます!」
「だからって先生方が見て」
「そうそう。先生方にも好評だったんだよ。良かった、多めに持ってきてて」
「熱燗飲みたいって言うから学園にありますっていう話をしてたら消えたがな。寒いとあったかいもん欲しくなるよね」
「実技中ぅぅぅ!明らかに飲みに行ってんじゃねぇか!え、中止?こんだけやって中止なの!?ちょ、いいとこまでいってたのに熊如きで俺達の単位が一気に怪しく!」
「如きとは失礼な。ある意味生産者に謝れ。俺と違って全力の好意だぞ」
「あ、最上先輩すんません!そしてアンタはやっぱり茶化しに来たのかっ」
「ある意味生産者だけど怒ってはないから安心して。吉野もあんまり後輩で遊ばない」
「ふぁい、わはりまふぃふぁ」
からかわれて頭から湯気を出す食満と、苦笑した羽前に頬を抓られる阿波を眺めながら、善法寺は一人ずずず、と熊鍋を啜った。
(中止はラッキーだけど、僕らが昼から隠れてた時間は無かったことになるのかな……でもまぁ、美味しいからいっか)
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匂いで気付かれるんじゃ…ってのは心の奥深くにしまって下さい(^^)
育てては無いけど肉を作りだしたから「ある意味」生産者ってことで。熊皮被る羽前くんが可愛いよもこもこ!
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