おはなし | ナノ
流れっぱなしの愛情2



「ほら、鉢屋。あったまったら手を出しな」
「えー…ってかこんな血も止まった傷に気付くとか、マジで暴君ですか嗅覚犬並み」
「怪我に関してだけね。ああほら、結構肉が抉れてるじゃないか。痕が残りそうだなぁ。何か掴んだの?」
「皿が割れまして、片付けてたらこう、グサッと」
「うわぁ痛い」
「棒読みですね」
「うわぁ!痛い!」
「言い直さなくていいです。え、これ遊ばれてる?私ファイト」
「ふぁいとー」
「なんだろう今日の善法寺先輩どうしようもなくイラッときますね」
「きっとさっき僕がいない間に医務室の薬をこっそり使おうとしてた鍛錬馬鹿共のせいじゃないかな」
「なんてこった私一ミリも関係ない」


雑談しながら軟膏を塗り細く裂いた包帯を巻いて行く。くるくると巻かれる包帯は白くて、まるで伊作くんの様だといつも思う。いや、見た目じゃなくて中身ね中身。天使みたい。ちなみに先程鍛練馬鹿達をぐるぐる巻きにしてたときは女王様みたいでした。
そりゃあ、土色に「いさく」と描かれた僕とはまるで違う、人間の身体が羨ましくないと言ったら嘘になる。
僕も伊作くんと同じ人間だったら、どんな感じだったろう。中身が冷えないよう気をつけたり、落された時も踏ん張って布の上に落ちたりしてるから、結構気の回る小器用な人間だろうか。伊作くんと同じように学園に通って、同じように制服を着て、授業に出て、怪我をしたら手当てをしてもらって。


何より落された瞬間に伊作くんとお別れすることになると怯える生活とオサラバ出来る。
それはとても素晴らしいことの様に思えた。


「大事にしなよ。身体は一度壊れたら、元には戻らないんだから」


伊作くんがその言葉を言うまでは。


そうか、結局人間だっていつ壊れるか分からないものね。だったら僕はまだ、湯飲みがいいな。壊れるのは怖いけど、怪我して君を困らせることもないし、予算削減で数の減った貴重な薬を消費することもないし。
それに何より湯飲みだったら、君に使ってもらえる。


君の柔らかくて桃色の唇に堂々とキス出来るもの。


「こんな怪我、すぐに治りますよ」
「痕残っちゃうかも」
「…痕よりも、問題は皿です。直りますかね」
「留さんに直してもらえば。割れた液晶画面でさえも直す男だよ」
「万能すぎですね。カムバック室町」


なんてこった。僕の長年の悩みが数秒で終了のお知らせ。食満留三郎様の偉大さを垣間見ました。今まで伊作くんと同室…ギリッとか伊作くんの親友…ギリリッとか思っててごめん。そして噛み締める歯が無いのに歯軋り出来る僕はやっぱり小器用。
「もうあの人忍者諦めて修理屋開いたらいいと思うんですが」と呆れる鉢屋に、「それは僕が寂しいから嫌だなぁ」と苦笑いな伊作くん。やっぱり留三郎この野郎伊作くんに寂しいと思ってもらえるなんてギリッと歯軋りしたのはここだけの秘密だ。






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