おはなし | ナノ 流れっぱなしの愛情1



君のその柔らかな唇が触れるたび僕の熱く蕩ける白い液体が君の口腔に注ぎ込まれて歯をなぞり舌に絡みつき食道を走り抜けていく。
美味しそうに少しずつ、少しずつ嚥下する君のその恍惚とした表情の魅力的なこと!
僕は今日もそんな君に頬の熱を上げ、優しくキスをするんだ。





「あ〜…あったかい…ホットミルクってどうしてこう幸せな気分になれるんだろうね」
「室町でホットミルクとか時代超越パネェっすね善法寺伊作先輩」
「身長どころか言語まで自由自在な君に言われたくないよ鉢屋三郎。ほら、ちょっとおいで」


真夜中の医務室にやって来た招かれざる客が、僕と伊作くんの逢瀬を邪魔する。畜生鉢屋お前覚えてろ。所詮湯飲みって舐めてたら痛い目見るんだからな!
しかしそんな僕の「帰れオーラ」にまるで気付かないAKB88(阿呆で空気の読めない馬鹿な鉢屋)は、可愛い伊作くんの呼び寄せにふらふらと近づいた。ええ、まるで光に近寄る蛾でしたね。毒粉撒き散らしてんじゃねぇよ。


「なんですか。っていうか包帯貰えます?ちょっとでいいんですけど」
「駄目。どうせ不破と同じ位置に包帯巻きたいとかいう理由なんだろ?」
「ばれてましたか」
「不破の手当てしたの僕だもん」


だもんって!だもんってなんだこの可愛さ!伊作くんマジパネェ…!室町のナイチンゲール!
悶える僕は次の瞬間、更に近づく、というか近づけさせられた鉢屋との距離にぎょっとした。さっきまで柔らかく桃色な唇の感触とは違う、薄く弾力のある感触………うげっ。


「ほら、これで共犯」


ふふっと笑う伊作くんは世界を獲れそうなほどに可愛いが、生憎僕の世界はたった今この瞬間粉々に粉砕されたから現在修復中である。誰か食満留三郎を連れて来てくれ。あいつの修理技術ならまだ助かる見込みもあると思う。
もし僕の心と体が直結していたら今の衝撃でヒビぐらい入ってただろうね。それぐらいの大事件です。
なのに伊作くんは悪戯が成功した小さな子供みたいに笑うんだから、本当罪作りな子だ。僕の気持ちも知らないで。というか本当に知り様がないんだけどね。あーあ、湯飲みってのはこれだから。


「共犯ってことは、食堂からくすねてきたんですか、その牛乳」
「ははっ。おばちゃんに言ったらお前も同罪だって巻き込むから」
「暴君は七松先輩の専売特許だと思ってました」


ぐびりぐびり、腹癒せの様に僕を仰ぐ鉢屋。てめっ、何度も飲んでんじゃねぇよぺっぺっ!それは伊作くんと僕の愛のホットミルクだお子様はすっこんでな!喚く僕の気持ちも知らないで(湯飲みってのはこれだからパートU)、伊作くんは傍らの薬箱から貝の器に入った軟膏を取り出す。






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