おはなし | ナノ おさなづま12



と、まぁそんなこんなで学園。俺はさっそく『皆本金吾』へお土産を渡しに…いけなかった。
よし、行くぞ!と気合を入れたとき、運悪く山田先生に捕まってしまったのだ。


「おお、名字。お前さんが帰ったってことはろ組の実技は終わったのか」
「西の方は。東が課題地だった班はまだ帰ってませんね」
「そーかそーか。ほれ」
「…はい?」
「『はい?』じゃないよ。年長者が重そうに荷物担いでんだから、ちょっとは手伝いなさいな」


ずしっ。両腕に圧し掛かる本達の重みで、俺の腕が下がる。なんてもん持たせんだこの教師…しかも自分はちゃっかり手ぶらになっている。


「自分が奥さんと破局寸前だからって生徒の未来の可能性まで摘み取っていいというんですか!」
「何馬鹿なこと言っとる!」
「あいだっ」


頭に拳骨を頂いて、俺はようやく観念した。畜生どうせこの後も細々とおつかい頼むんだろ。五年生は学園内でも比較的大人しいから雑用を頼まれやすい。だからもっと奇抜に個性を押し出してこうと五年いろは総会議で声高々に主張したのに。


「名前、大丈夫?」
「らいっ…じゃなくて何か御用ですか三郎さん」
「一気に顔が変わったな」
「愉快犯に笑いかけるほど暇じゃない…って何をする」


天使の笑顔な雷蔵…に擬態した三郎が目の前に歩いてきて、俺の荷物を取りあげた。なんだ部屋に置いてきてくれるのか。それならこの本の返却手伝ってくれよ。


「言っただろう、伝書鳩になってやると」
「だから文は」
「何も想いを届けるのは文だけじゃないさ。贈り物もまたしかり。というわけでこのお土産は私が金吾に渡しといてやろう」
「…雷蔵か」
「『名前は考えすぎると動けなくなるからね。放っといたら理由を見つけてずるずると先延ばしにして、せっかくのお土産がかちかちになっちゃう』だとさ」
「むう」


あながち間違いでもないのが悔しい。
しかしせっかくの会う口実、このまま流していいものか…いいやしかし…うーむ。


「ほれ、悩んどらんでさっさと歩く」
「あだっ」


すっかり忘れていた山田先生の拳を再度受ける頃には、自称伝書鳩の姿は無かった。



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