おはなし | ナノ
人形芝居17



伏木蔵のお土産はいつも面白い。
迷子になったときに拾った落ち葉だとか、遭難したときに拾ったキノコだとか。
落ち葉は押して和紙に貼り付けて、キノコは色を楽しんだ。夕焼けみたいな色だった。
この間は委員会で作ったという傷薬をくれた。合わせ貝の中に入った緑色の軟膏は凄い匂いがしたけれど、指を切った時に塗ると驚くほど痛みが引き、治りが早くなった。私はそれを伏木蔵に早く伝えたくて、彼の帰りを日々心待ちにしている。





「また来てるわよ、青木様」
「舞を所望で?」
「いつものように『伏と鶴町を』って」
「…はぁ」


変な木乃伊男の襲撃を受けてから三日。私は何事もなく日々を過ごしていたし、主様も健在である。ついでに言うと髭爺も健在である。まったく残念なことだ。


「来るたび馬鹿の一つ覚えのように同じことを何回も…もしかして完全に呆けてるんじゃないでしょうね」
「違う意味で惚けてるみたいだけどねぇ。伏ちゃん、当分帰って来ないほうがいいかもね」
「それは…」


遊女の心配はもっともであるし、このまま髭面の色惚け爺が伏木蔵から興味を無くすまで会わない方がいいことは私でも分かる。


分かるけど、でも。


「会いたいのに」
「おや、そんなに私に会いたかったのかい」
「っ!?」


夜、灯りを消した部屋の格子窓から夜空を眺めて呟くと、聞こえるはずのない声がした。咄嗟に扇を持ち窓を背にすると、戸の前に立っていたのは、やはりあの、木乃伊男。
あの夜「またね」と一瞬で姿を消してしまったこの男に、私は二度と会いたくはなかった。侵入者だし、得体が知れないし。何より男の気配は、まるで鋭い刃の様で、私に命の危険さえ感じさせた。


「あなたは…」
「先に言っておくけれど、木乃伊ではないよ」
「名も仰らないのですもの。木乃伊男としか呼べません」
「……じゃあ、明石(あかし)と呼んでくれ」
「……美味しそうなお名前ですね、明石焼きさん」
「焼きまでくっつけなくていいよ!」


同じような事が以前にもあったのか、くわっと顔を(というか目を)険しくした明石さん。
その必死な様子に怖さが薄れて、思わず状況も忘れて笑ってしまった。
それにしても、明石か。暗闇の男が。


「ふ、ふふっ……ああ、おかしい。すいません、明石さん」
「…いや、いいんだけどね。そんなに似合わないかい」
「そういうわけじゃないんですけど、明るいって、貴方から一番遠そうな漢字だからしっくりこなくて」
「君も招福の鶴というには些か幸薄そうだ」
「あら、調べたんですか」


『鶴町』を匂わせる言葉に、驚いて目を瞬いた。
三日間何をしていたかと思えば、情報収集とは。なんとも仕事熱心なことだ。
正直勝手に調べられるのはあまり気分が良いものではないが、目撃者の始末に来た様子でもないようだし、疑惑が晴れたのなら良しとしよう。



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