おはなし | ナノ
03 寂しさを感じたある秋の日



秋の休暇は夏より長いはずなのに、三郎さまは帰ってこない。


「三郎さまのばか」


『雷蔵の家で暫く過ごしてから帰る』なんて文が届いたのは今朝のこと。それきり僕は、部屋で引き籠っていた。だけどいつものことなので皆は「ほどほどにな」と苦笑するばかり。なんだなんだ。少しは心配してほしい。


「三郎さまのばか」


ごりごり、僕の部屋に重い音が響く。
ごりごり、そういえば三郎さまが、「お前の部屋は伊作先輩の部屋みたいだ」と言っていたことがあった。


伊作さま。三郎さまから時折話を聞くけれど、どんな方なんだろう。


僕はこんなとき、ふっと三郎さまの学園での姿を想像してしまう。
いつものように澄ました顔で無茶をして、怪我を作って、保健委員長という『伊作先輩』に手当てをしてもらう。その内『雷蔵』や『ハチ』が迎えに来て、「また無茶して!」なんて怒られて。『兵助』と『勘右衛門』も来て、「いつものことだけど馬鹿だなぁ」なんて呆れたりして。説教をむっつり聞いていると、伊作先輩が「お大事に」と包帯の巻かれた患部をぽんと叩く。あんまり痛くて三郎さまは悶絶してしまって。もしかしたら少し涙目になっているかもしれない。


「…ふふ」


三郎さまが幸せなら、僕もなんだか幸せだ。
でも早く帰って来ないかな。そろそろ身体もお辛いだろうに。


「ちょっと、起きてる?」


ぼんやりと考えていると、部屋の外から声がかけられた。


「はーい、何か用?」
「当主様がお呼びだよ。着替えてすぐにお行き」
「…当主様が?」


僕に何の用だろう。
三郎さまがいないときは特に怒られることもしない僕は、首を傾げながら立ち上がった。






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