おはなし | ナノ 拍手ログ03/乱太郎



「乱太郎が一流忍者になっちゃったら、俺泣いちゃうかもー」
「えぇ!?」


天気が良いから裏山にお散歩しよ。
満面の笑みの先輩に引き摺られてやって来た花畑。先輩に抱えられ、連れて来られた大きな木の上。
先輩に見捨てられたらどうやって降りよう、と冷や汗を流す乱太郎を見もせず、隣の枝に座った先輩は遠くを見ながら呟いた。
乱太郎は耳を疑う。この傍若無人な、乱太郎限定暴君と呼ばれる先輩が…泣く?


「どした乱太郎。高すぎてチビったか」
「チビってません!どうして先輩はいつもそんな…っ」
「どーどー。怒りすぎると落ちて眼鏡割っちゃうぞ?」
「眼鏡どころか私の骨が割れます!!」


くわっと吠えた後輩の姿が面白かったのか、先輩はその場でごろりと笑い転げる。あ、と思う間もなく落ちる…はずもなく。枝に足を引っ掛けて宙ぶらりんになった先輩は、まだ笑いながら乱太郎を呼んだ。


「なんですか」
「らんたろー」
「だから、なんですか先輩」
「一流なんてやめとけよ」
「は?」


さっきから何を言うんだろう、この人は。


「でも私は…」
「由緒正しい平忍者なんだろ?半忍半農でいいじゃん。農家が嫌なら医者になりゃいいじゃん。伊作みたいに六年ぐらい保健委員やれば大抵の治療は出来るようになるから」
「…でも私は、一流忍者になりたいんです」


先輩は宙ぶらりんになったまま、遠くを見てる。裏山で一番高いこの木は、ずっと向こうで空と海が交わっているところまで見渡せた。


「乱太郎、きり丸としんべヱは好きか」
「はい」
「は組の皆や、土井先生、山田先生は好きか」
「はい」
「い組やろ組、伊作…先輩達や他の先生方も好きか」
「はい」
「そっか…一流忍者になっても、その心は失くすなよ」
「…はい!」


仕方がないなぁ、そんな風に笑って、先輩は木に座りなおした。遠くを見て、乱太郎を見て、また遠くを見て。


「あーあ。俺、泣いちゃうなー」


寂しそうな先輩の呟きは、その後ずっと、乱太郎の記憶から消えることはなかった。





先輩と再会したのはそれから十年の後。
月明かりで光る花畑。大きな木の上。黒い装束を着て対峙する二人。


「   」


ここからじゃ、海は見えなかった。



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