おはなし | ナノ
いい加減にしろ!2
そしてもう一つ気に入らないのは、名前先輩が事ある毎にタカ丸先輩を触ることだ。耳を触り喉を触り尻を撫でる。僕も頭を撫でて貰うことはよくあるが、そんなことされたことない。こ、こい、恋人なんだから、僕にだけ触れてくれれば…
「左吉」
激情のままに吐露していた言葉を、噤んだ。
呆然と顔を上げれば、名前先輩の顔は嬉しそうにだらしなく笑み崩れていた。伝七達は普通だと言うけれど、僕から見たらやっぱりその顔はうっとりするくらい格好良くて。
「名前先輩、今、名前…」
「左吉、左吉、左吉。可愛い左吉。これに嫉妬したのですか」
「なっ」
「早く言ってくれればいいものを」
なるほど、ここ最近の貴方の機嫌の悪さは、可愛らしい嫉妬から来ていたのですね。
名前先輩は納得納得、と腕を組んで頷く。本当に幸せそうな笑顔なので、僕は違うと強く言えない。
「うっ、あ…違…」
「左吉、私はてっきり貴方に愛想を尽かされたのかと。別れを切り出されたらどうしようと、タカ丸に相談していたのです…はは、なんとも情けないことなのですが、今日もそれが怖くてタカ丸に付いてきて貰った次第でして」
「…え?」
「お起き、タカ丸。どうやら私の勘違いだったようだ。左吉は私を愛してくれているらしい」
「なっ!?」
「むにゃ…上手くいったの?オメデトー」
「ああ。協力感謝する」
名前先輩に揺り起こされたタカ丸先輩は、目を擦り擦り、起きぬけの言葉にへにゃりといつものように笑って喜んだ。まるで、自分のことのように。
…僕はとても狭量な人間だ。
僕が自己嫌悪に陥っていると、名前先輩の膝から起き上がったタカ丸先輩がうひひとその柔らかい笑顔に似合わない笑い声を発した…え?タカ丸、さん?
「上手くいったら名前の髪、暫く好きにさせてくれるって約束なんだー」
「は?」
「む、好きにすればいいが、そう変な髪にはしてくれるなよ」
「ちょ、え?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!手始めに今日のシャンプーからね。夕ご飯食べたらお風呂行こ」
「ああ。左吉ど…左吉、夕餉は共に……左吉?」
わなわなわな。自分の身体が震えている。
タカ丸先輩に悪いかなって思ったけれど、取り消しだ!名前先輩も名前先輩で、ちっとも分かってない!
優秀ない組である名前先輩に、こんなこと言うのは失礼かもしれないけれど…もう我慢できない。
「名前先輩の、馬鹿ぁぁぁぁ!!!!」
「さ、左吉!?いったいどうし…あああ待ってください!左吉殿ー!!」
「ありゃ、左吉くーん?」
その日の夜、心配そうな顔をしてお握りを持ってきてくれた伝七が言うには、僕の捨て台詞は学園中に響き渡ったらしい。芽生えた少しの罪悪感は、名前先輩が情けない顔でタカ丸先輩にひっついてたぞ、という情報に粉々に消えた。
いい加減にしろ!
まったく、貴方の恋人は、いったい誰なんですか!?
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