おはなし | ナノ おさなづま11



茶屋で三人を待ってる間、手の中で守り刀を転がしながら考えた。
『皆本金吾』にこれをあげたら、どんな反応をするだろうか。嬉しがる?高価すぎて怖がる?一年生だし、これが高い品だということすら分からないかも。
考えながらも団子をぱくり、うん、美味い。さすが俺が選んだ茶店。


「名前、早いね」


そうこうしていたら、雷蔵が本を数冊抱えて小走りにやって来た。急がなくてもいいぞ、三郎と八左ヱ門もまだだから。


「雷蔵、今回は早かったな」
「もう、そうやって茶化されるって分かってたから頑張って決めたのに」


雷蔵は毎回古本屋へ行くと長い。本を選ぶのに、あの得意の迷い癖が遺憾なく発揮されるためである。そして前回とうとう、日暮れまで悩むという自己最高記録を作ってしまったのだ。
苦笑する雷蔵が抱えた朱色や緑の黄ばんだ本は、悩んで悩んで、結局大雑把に全部買って来たんだろうな。別にいいけど、食費削って本代にするのは止めろよ。
娘さんに団子と茶を頼んで、ふう、と一息吐いた。


「三郎達、そろそろかなぁ」
「荷物持ちがいるからな…三郎の奴、今回はどんだけ仕入れてくるか」


三郎はいつも美女に化けて買い物をするため、鼻の下を伸ばした店員が大幅にマケてくれる。奴自身の変装用の他、作法やくのたまから頼まれることもあるため、結構な量になることも度々だ。
というか作法なら女装して買い物すればマケてくれるだろうに。立花先輩とか、喜八郎とか。


「ね、名前」
「んー?」
「金吾にお土産買った?」
「ぶふっ」


のんびりと雀が飛び立つのを眺めながら茶を啜っていると、みたらし団子を頬張っていた雷蔵が突然爆弾を投下した。驚いてお茶が飛び散る。なんですか雷蔵さん、その迷惑なものを見る目は。


「お土産って」
「解散する前に言ったじゃないか。何を買ったの?…名前のことだから、まさか包丁とかしゃもじとかじゃないよね?」
「心底心配そうに俺を見るな!いくら俺でも、いきなりそんなもん贈るか!」
「そう?」


「なんだ、ちょっと残念」なんて可愛らしく言ってれば全て許されるなんてもんじゃねぇぞ。俺は雷蔵の頭を小突いた。それでも雷蔵は擽ったそうに笑う。代わりに俺の手はじんと痛んだ。畜生この石頭!


「難しく考えないでいいんだよ。相手が受け取った時に嬉しがるようなものを贈れば」
「それが難しい」


何より俺、『皆本金吾』が何を喜ぶのか知らんぞ。…包丁やしゃもじならアレだが、菜箸とかならどうだろう。
悩む俺を微笑ましそうに眺め、雷蔵は食べかけの団子を再び口に入れた。…みたらしが頬についてる。が、たぶん気付いてるんだろうなぁ。そのうえで「食べ終わったら拭おう」とでも考えてそうだ。いや、絶対考えてるなこの大雑把。まったく神経質な三郎が世話を焼きたくなるのも頷ける。
三串目に手をかけた友人を横目に、飯が入らなくなるぞと注意しかけてふと口を噤んだ。俺も甘味は普通に好きだが、下級生の頃は今よりもっと美味しく感じていた。子ども味覚。子どもは甘い物が好き。『皆本金吾』は一年生。


俺は団子を贈られた『皆本金吾』の姿を想像した。


『わぁ、ありがとうございます!』


満面の、怯えのない笑顔。
…ふむ。悪くない。
価値の分からないかもしれん石ころをやるより、よほど想像しやすい。


よろけながら大量の荷物を抱える八左ヱ門と、手ぶらで楚々と歩く美女(しかし中身は変態男)がやって来る頃には、俺は笹の包みを脇に置いていた。勿論、雷蔵には散々からかわれたが。



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