おはなし | ナノ
貴方の愛は嘘っぽい1



「ぜ、ぜんばいのばがぁぁぁ!!!!」
「顔から出すもん全部垂れ流して何言ってんだ」


部屋に飛び込んできた神埼左門の姿を見て、自室で本を広げていた俺は呆れた。ちんちくりんな顔は涙と鼻水で極限までぶっさいくに磨きをかけ、サラスト9位の髪は木の葉や土埃でぐっちゃぐちゃになってしまっている。まったく酷い有様である。


「ぜんっ、ぜんばいが、悪いぃぃ」


いきなり壊しそうな勢いで障子を開けて、読書中の先輩を罵る。良い度胸である。一発拳骨でも見舞ってやろうかと拳を作ると、左門はひっ!と悲鳴を上げた。苛めているみたいで落ち込むからやめろ。


「ほれ、障子閉めてこっち来い」
「ううっ、うっ」


ずびび、鼻水をすすりながら胡坐をかいた俺の上に座り込む。どうでもいいが俺の服に鼻水が付いたら学園引き回しの刑な。方向音痴になりようがないくらい道を覚え込ませてやろう。実地で。
顔に押し付けた手拭い越しにふごふご聞こえる。返事か抗議か。とりあえずこの手拭いもう使えねぇなぁ。








「…落ち着いたか?」


幼児をあやすように背中を叩いて暫く。うとうとと船を漕ぎそうな左門に問いかけた。眠る前に俺を罵った理由を吐け。事情によっては部屋まで送って行ってやろう。万一「なんとなく」とかだったら蹴り出すが。


「で、どうしたんだいったい」
「先輩…」
「んー?」
「先輩は、ぼ、僕を!」
「んー」
「僕を愛していますか!?」
「んー………ん?」


衝撃的な言葉に固まる。その際詰まった言葉に何を思ったのか、この後輩は再びぐちゃっと顔を歪ませた。


「やっぱり…やっぱり僕のことなんて遊びだったんですねー!!」


やめろバカ、変な台詞を大声で言うな。明日同級生になんて言ってからかわれるか。「神崎を弄んだのか」「最低だぞ貴様!」「やるなー!」「…そういうことは、よくない」「小さい子相手にそういう行為は病気の原因に云々」「下級生相手に何やってんだ馬鹿!」あ、全部思い浮かんだ。
俺の気苦労も知らないぶっさいくは依然として泣き喚いている。


「落ち着け左門。なんでそういう話になった」
「せん、先輩っが、悪ぃぃぃ」
「俺は何も悪いことはしてない」
「そう言って先輩、今日は何人の何処を触ったんですかー!」
「十六人の尻だ!」
「良い顔で即答しないでくださいぃぃ!!」


ぎゃわーん!俺の答えにもっと泣きだした左門。最早怪獣である。手拭いどころか俺の手に鼻水付いたぞバカ。
左門の聞いたこと。それは俺の本日の戦果であった。詳しく言うと本日は伊作から始まり不破や久作、その他きゅんときた尻を揉んで回った。ちなみに昨日は鉢屋や団蔵といった面々の太ももを直触りして回っている。


「数馬とか藤内が、尻を触られたって言ってて…」


あーそういや触ったかな。廊下でぺろんって。数馬の悲鳴「きゃわっ」だったぞ。藤内も真っ赤で、可愛すぎて鼻血出そうだった。


「そしたら作兵衛と三之助が、俺も触られたって…」


ああ、触った触った。特に作兵衛の尻はきゅっとして掴み心地が良かったから揉みしだきましたご馳走様。半泣きだったけどな。三之助は触られても暫く気付いてくれなかった。


「で、それ話してたら孫兵が来て…さっき触られたって…ジュンコも!」


美少年が腹這いになって茂みに頭突っ込んで尻突き出してたら普通触る。念入りに触る。ジュンコは正直ノリだった。まさかあの部分が蛇的に尻だったとか知るか。


「僕だけ…僕だけ触られてないぃぃぃ!!!!」
「うるせーバカ。くだらんことで騒ぐなバカ。ぶっさいくバカ」
「ぶさいく言うな助兵衛!」
「スケベの何が悪い!」
「だから良い顔で即答しないでくださいぃぃ!!先輩は僕を愛してないんだぁぁぁ!!」
「好き好き大好き、愛してるぞー」
「棒読みぃぃぃぃ!!!!」


ぎゃわーん!これ以上泣くと目ん玉溶けるぞ。
ぶっさいくな顔が真っ赤でぐちょぐちょ。もう本当酷い。何これ、これが俺の恋人?マジで?怪獣か子泣き爺じゃねぇの?



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