おはなし | ナノ
モブのきもち4



それは突然のことでした。朝起きて、いつものように隣で眠るあの子に挨拶しようとしたら、部屋が異様にすっきりしていたのです。間に置かれた紅葉の模様の衝立は無くなっていました。机に散乱していた教科書も、壁にかけられていた草履も。寝る前に床に転がっていた綺麗な小石は、俺が石を集めていることを知っているあの子が海でモブってきたお土産として俺にくれたものだったのに。しかしそれも、ない。俺はすぐに着替えて食堂に飛び込んだ。そこで知った、オリエンテーリング。そして他のモブの、言い辛そうな顔。


「勘の字のことなんだがな…」
「ん。分かった」


分かってしまったよ。だって俺達は日々それを怖がりながら、それでもほんの少し夢見ながら過ごしていたじゃないか。


「レギュラーに、なったんだろ?」


あの子は、同じクラスの唯一のレギュラーと同室になったらしいです。部屋割なんてそんなもんですよ。先着順で埋まって行く。六年なんて見てみなさい。組が違う六人の部屋が隣同士なのに、誰も疑問を発さないでしょう?つまりその設定が出来た時点で、俺の部屋からあの子もあの子の私物もあの子との思い出も消えてしまったのです。ああ、あの綺麗な石は何処へ行ってしまったんでしょう。せめてあれさえあれば、俺はこの事実に耐えることが出来たかもしれないのに。俺は手元のクナイを握りしめた。耐えられない想いは爆発するしかないじゃないですか。そして数日後、俺は久々知兵助へ特攻して、見事に玉砕することになる。綾部が覚えていたから、もしかしてあの子も、なんて淡い期待は刃と一緒に打ち砕かれた。


『おやすみ』


最後に交わした言葉が、笑顔が、頭の中をぐるぐる回る。









おやすみ、おやすみ。もう二度と目覚めなければいいのにね。



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