おはなし | ナノ モブのきもち3



ところで綾部喜八郎を知っているでしょうか。穴掘り小僧とか電波とかあややとか呼ばれてる奴のことです。用具委員を怒らせようとしか思えないほどの穴を日夜掘り続ける、『穴掘り』をキャラ付けとされた四年い組のレギュラー。奴はちょっとおかしい。普段電波な言動で穴を掘り、アニメ時間には奇妙な方向に明るくなって穴を掘る、二重人格みたいな方向性になってしまっていた。ちなみに俺と数人のモブっ子達の間では、「綾部が笑えばアニメ時間」という暗黙の了解があるのだが、それは特に必要な情報ではない。俺が言いたいのは、この奇妙な後輩がおかしいのはそれだけではないということです。


「名前先輩、今日も穴埋めご苦労様です」
「綾部…分かってんなら掘るなって何度言や分かんだよ」
「仕方ないんです。気付いたら穴を掘っているんですから。私だって、泥だらけは嫌です」


綾部はどういう訳か、俺のことを覚えていました。他のモブのことも、ちらほら覚えていたりします。覚えてない奴は単純に話したことなかったり、あっても数度だけだから、忘れてしまうのも当然だ。そんな薄い縁、俺でも忘れるね。まぁそんなわけで、綾部はおかしい。天然電波な綾部。奇妙に明るい綾部。どちらの綾部も穴を掘るが、実際コイツは穴を掘る行為がそう好きなわけではないらしい。ある日突然穴を掘りたい衝動にかられ、以来ずっとこんな調子らしい。二重人格といい穴掘りといい、いつかコイツは壊れてしまうんじゃないだろうか。そう心配して見かけるたび観察するのですが、未だその兆候はありません。


「ところでさっきまで『アニ部』が西に穴を掘っていたらしいです」
「ま、た、か!」


綾部はアニメ時間の朗らか綾部を『アニ部』と言って区別していました。どうやら自分とは別物だと考えているらしい。素晴らしい自己保存努力だ。


「おら、一緒に埋めに行くぞ」
「なんだか食堂に行かなきゃいけない気がするので、駄目です」
「レギュラーの勘か」


次は食堂で騒ぎが起きるのか。夕食までには納まって頂きたいものである。まったく綾部も大変…


「いえ、穴を掘ってお腹が空いたので」
「今すぐ埋めに行くぞ!問答無用だこの不思議レギュラー!」


ちらとでも心配してやるんじゃなかったこの電波!大体俺はレギュラーが嫌いなのだ!なのになんだってコイツと話したりするのか。…理由は悲しくなるほど分かっていました。


こいつは俺を、ただの一度も忘れたことがないのです。



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