おはなし | ナノ
モブのきもち2
こんにちは。レギュラー組に殺意みなぎるモブです。それ以外の特筆すべき特徴は無い。だってモブだもの。他のモブだって皆そんなもんですよ。ところで俺は今黙々と庭の掃除をしています。主に穴を埋めていますね。何故かって?そりゃ、いつもの如くどーんでばーんでどごーんな結果だよ!暗殺者やらバレーやら宝禄火矢やら蛸壷やら。まったく危険な学校である。穴だらけになった校内を、レギュラー用具委員の面々だけで直せるはずがありません。六年一人と三年一人と一年三人。実質戦力は二人。たった二人で学園中の穴という穴をその日のうちに塞ぐ?馬鹿言うんじゃないですよ。絵本じゃないんだから。というわけで奴らが直しきれない穴を、俺や他のモブで直してたりします。そんな俺達は実は用具委員なわけですが、レギュラー用具委員はそんなこと知りもしないのでしょう。遠くで大きな爆音と、豪快な笑い声と、聞き慣れた怒鳴り声が響いてきます。また何かやらかしたのかね。アニメ時間でもないのにご苦労なことです。
「おい、俺向こう行ってくる」
「ん。委員長によろしく」
「ばっか、覚えてるはずないだろ」
増えた穴を埋めに、モブの一人が傍の穴から這い出ていきました。そう、委員長は俺達のことを覚えていません。前は飴やら何やらくれたものですが、今は俺達を見ても声さえ掛けてくれません。レギュラーになると、モブのことは忘れてしまうのでしょう。委員長も富松も、俺のことを忘れてしまいました。一年は組の二人なんて会話したことすらないのです。平太は挨拶だけしたけど、早々に忘れられました。仕方ない。これがモブの宿命なのですから。俺達に出来ることといえば、日々壊れた学園を修理し、漫画やアニメの端々に頭や足や手をチラ見させ、縁の下の力持ちに徹することだけ。
「名前、これ倉庫に運んどいて」
「うえぇ…一人で?」
「勘の字と一緒に行けば…あ、ごめん」
「ん、気にすんな。じゃあ行ってくるわよーん」
「ぶふっ、キメェ!」
「あっはっは!」
今日モブである奴が明日もまだモブだとは限らないから、モブ同士で「忘れない」なんて約束しても意味は無いのです。どうせ皆忘れてしまうのですから。
いつも隣にいたあの子は、もう俺を覚えていないのですから。
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