おはなし | ナノ
ところで2



全然どうでもいいことだが、私は目が良くない。
幼い頃は遠くの木にとまる鳥さえも見えたものだが、今では近くの人の服にとまる蚊が見える程度だ。
眼鏡もあるのだが、あれは外した時の茫洋とした感覚が嫌いで滅多につけることはない。宝の持ち腐れである。


「正直、似合わない」


友人にそう評されたこともある。あれは何時の話だったか、たぶん休み時間、教科書を読むために眼鏡をかけていた私を振りかえり様の一言だったと思う。
友人ほど顔がよく無い私だが、普段はさして気にしていない。だが一応年頃なのでその一言は重く深く私の心に沈み、以来その友人の前で眼鏡をかけることをやめた。


授業が終わればさっさと眼鏡を外す私を見て、彼はいつも顔を顰める。いったい何が気に入らないのか!似合っていないものをぐずぐず身につけているより、素の顔の方がまだマシではないか。
言っておくがこれは拗ねているのではない。怒っているのでもない。本当だ。ただ少しだけ、腹立たしいだけで。矮小な私は人にこのような態度をとることに対し、あとで転げまわるほど後悔をするのだが、友人の綺麗な顔を思いだせばその後悔も露と消える。


腹立たしいほど綺麗な顔を持つ友人は今日も眼鏡を外す私を見て顔を顰め、何が気にいらないのか飼い蛇を私にけしかけようとするのだった。





つまり奴も嘘吐きである。



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