おはなし | ナノ そして私は灰になった



「左近くーーーんっ!あい・らぶ・ゆー!!」
「煩いバカ!」
「だぱんぷっ」


大きな声で告白した次の瞬間、私の体は宙を舞った。今日も素敵な右ストレート。元気な様子で私も嬉しい。
私の想い人は照れ屋でツンデレなので、告白するたびこんな反応が返ってくる。昨日は踵降ろしが綺麗に決まった。しかし袴なので中は見えなかったよ!残念!


「真っ赤になった左近くんも可愛い…本日もご馳走さまですじゅるる」
「あ、頭大丈夫…?」


親友の四郎兵衛が心配そうに殴られた頭を心配してくれた。怪我的な意味でだよな?精神的な意味だったら幾ら私でも立ち直れないぞ。


「大丈夫大丈夫。傷一つないぞー」


私の皮膚は何故か鋼鉄のように頑丈なので、打たれても蹴られても落とされても全然大丈夫だ。怪我ひとつない。
父も母も姉も叔父も祖母もその他一族全員も、鋼鉄の皮膚。きっと遺伝子操作とかそんなんだ。陰謀渦巻く一族とか面倒臭くて嫌だなぁ。
ともかくそのお陰で、私は左近くんからの愛の鞭に耐えていけた。いや、怪我しても左近くんに負わされた傷なら一生物の勲章に違いない。それはそれで美味しいなぁ…。


「お前の場合、頭の中身が大丈夫じゃないだろ」


再び涎を啜っていたら、背後から呆れたような声がした。嫌々振り向けば、案の定い組の池田。能勢も一緒だ。
私はこいつらがいけ好かないが、それはい組対は組の確執といった理由ではない。単純に左近くん以外のい組が憎い。羨ましすぎて。左近くんと同じクラスとか…私だったら毎日一族の守護神に感謝を述べるレベルだ。


「私よりお前の頭が大丈夫か。半日水に浸からんと皿が出るんだろ」
「俺は河童か!?」
「三郎次…?」
「シロ、真に受けるな!」
「三郎次…?」
「久作まで!?」


いけ好かないが、嫌いという訳ではない。どういう訳か向こうもこちらに対して友情というものを抱いているらしい。私も左近くんのことを除けば、友と言えるぐらいには親しい気がする。
しかし左近くん無くして世界は語れないので、やっぱり私はこいつらがいけ好かない。


「で、河童。左近くんが医務室の方に行ってしまったんだが…具合が悪いとか言ってた?」
「河童じゃないって言ってるだろ!……ああ、ま、そりゃ左近は保健委員になったんだから医務室に行くのは当然だろ」
「…ほわい?」
「ほわい?」


首を傾げて訊ね返したって可愛くもなんともない。そんな仕草するにはデコを出して上目遣いで何よりも左近くんになってから出直してこい。
しかし左近くんが保健委員…天使?室町のナースエンジェル?私は頭の中でナース服を着て微笑む左近くんの姿を無理矢理隅の宝物箱に入れ、意識を戻す。
保健委員会。学園中の不運な人が集まると噂の、別名不運委員会。


そして私は、会計委員会。


「…なんで?」


思わず情けない声が出てしまったことぐらい大目に見て欲しい。
一族の守護神出てこい。今すぐ出てこい。仕事怠慢してんじゃねぇよ。



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