おはなし | ナノ
こうみえて育ちは良いんです。



「父上。私、一身上の愛のために絶縁させて頂きます」
「ざけんな寝言は寝て言いやがれクソガキ」


私の真剣な告白に、声をあげたのは父ではなく姉だった。
淡々と紡がれる言葉の内容とは裏腹に楚々とした雰囲気の姉上は、虫も殺さぬような顔をして私に殺気を向けた。正直入学前のあれやこれやを思い出してとても怖い…が。


「愛のため、私は負けない」
「愛愛言っときゃ万事解決、みてぇな緩い脳は今すぐ掻き出せ。今ここでだ」
「あらあら、お食事中にそれは嫌ねぇ」


母上がころころと鈴を転がしたように笑う。母と姉は外見そっくりで中身もそっくり。言葉遣いが違うだけで、頭の中では今頃私への制裁を五万と考えているのだろう。果たして私は生きて学園に帰れるだろうか。


「親父もなんか言ってやれ。このクソガキャ、次期当主ってもんを軽く、」
「いいぞ」
「…あ?」
「愛ならば仕方ない。ってゆーか好きな子可愛い?ボインなの?貧乳なの?父はそれが知りたい」
「とても可愛らしく、そして貧乳です。とても良い子なので、こんな怪しげな一族に嫁がせたくないのです」
「お前貧乳フェチだったんかー」


左近くんは可愛いが、男なので乳は無い。従って貧乳で間違いはないはず。
私の言葉に「へーほーふーん。俺だったら乳はでっかい方がいいけどなー。やっぱでっかい乳にはでっかい夢が詰まってるからな!」と乳語りを始めてしまった。そんな乳の父語り(おっと間違った。安藤先生じゃあるまいに)を聞いて、母はうふふと笑う。母上、背後の鬼神を仕舞ってください。貴方の控えめな胸も父は愛しているはずです。


「おい待てクソ親父」
「食事中に糞はやめんか」
「腐れ親父」
「それもちょっと…ああ分かった分かった。で、何?」
「こいつは次期当主だろ。何考えてやがる」


真面目な姉上は黒い髪を揺らして、上座の父ににじり寄った。従兄の一人が細まった糸目を可愛いと言っていたが、姉上のあの表情は怒りのそれだ。従兄どんまい。
父上は怒る姉を見ながら、口髭についた米粒を取った。


「いやいや、直系なら一応お前もいるしさ。無理に継がんでもいっかなーって。どうせお前まだ良い人もいないんだろ?父はその中身が問題だと思うんだが」
「余計な御世話だ」
「お前がいずれ継げばいいし、それまでにこいつが出戻ってきたらまたこいつを跡目に据えれば良い。ああそうだ、学費はどうすっか考えてんのか」
「蓄えで四年の半ばまでは大丈夫です。足りない分はバイトして稼ぎます」
「まぁ俺らだったら合戦場で盾役でもやってりゃ一山稼げるしなー」
「貴方様も、若い頃は小遣い稼ぎによくやってらっしゃいましたわね」
「その度、敵側にお前が現れたな」


うふふ、あははと笑い合う両親。馴れ初めにしては過激だ。子どもの私には到底真似できそうもない。
姉上は私を睨んだ後、「絶対ぇ後悔すんぞ、クソガキ」と拗ねた様子で漬物を噛み砕く。
私は「それでも幸せだ」と豆腐を口に入れた。左近くんさえいればいい。そのためなら、当主の座も家族の縁も惜しくは無い。


ちなみに私達姉弟は喧嘩をしても、決して手は出さない。
何故ならどちらも恐ろしく丈夫なので、最終的に行き着くのは目や口内といった弱い箇所への攻撃になるからだ。私達はそれをうんと幼い頃学習して以来、言葉による論争を繰り広げてきた。残虐ファイトはもう二度とやりたくない。


…姉上の言葉遣いが乱暴なのって、私のせいじゃないよな?



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