おはなし | ナノ おさなづま7



「なぁ、名前」
「なんですか友人の窮地で真っ先に逃げた鉢屋三郎くん」
「そう怒るなよ」


あんな人外相手に加勢なんてあって無きが如しだろ、と三郎は軽く笑う。
くそう…もし狙われたのが雷蔵だったら加勢する癖に、と恨みがましく睨むと、「そもそも雷蔵は暴君に狙われるようなことはしない」と返された。確かに。


あの出来事から、俺は悩んでいた。


『皆本金吾』と話をしてみたい。
勿論求婚の返事は『皆本金吾』から話しだすまで待つつもりではある。単純に、会って話をしてみたいだけだ。
だが何を話せばいいのだろう。というか突然訪ねて行って、返事の催促だとでも思われやしないか。
俺は悶々と悩み続けた。


「名前、どうした。うじうじとお前らしくないぞ」
「俺らしいとは」
「鬱陶しいくらい楽天的で、自分本位で傲慢で、女の尻じゃなく厨をチェックして、くのたまどころかおばちゃん相手に本気で求婚しようとするくらいの馬鹿」
「良いところ一つもないな…」


凹ませてどうする。もっと持ちあげろよ。


「金吾が気になるなら会いに行けばいいさ」
「んー…でもなー」


なんだか会い辛い。会いたいのだけれど、会いたくないのだ。
それに俺が会いに行っても、『皆本金吾』はまたあの怯えた目をするだけだろう。


『先輩』


途端、暴君に向けられた真っ直ぐな視線を思い出した。あの子、あんな目するんだな。


「…ま、お前の場合はそれでいいのかもしれんがな。雷蔵が心配しているんだ。あまり迷惑をかけるなよ」
「結局はそれかい」
「当り前だろう。分かったならさっさと紙を用意しろ」
「あ?」


何処から取り出したのか筆を片手に、雷蔵の顔をした男はニヤリと笑った。


「この変装名人が、伝書鳩に変じてやろうというのだ。ありがたく思えよ」



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