おはなし | ナノ 人形芝居13



主様は伏木蔵を客に披露させることで、二代目を作ろうとでも考えたのだろうか。
それか危機感を与えることで私が逃げないように?…いや、考えすぎだろう。あくまで商談の折の余興、そういうことにしておきたい。
しかし主様の目論見は、違う方向で大きく大成してしまった。


「鶴町や、今日も伏はいないのかい?」


あの夜以来、伏木蔵が気に入ったらしい髭爺が頻繁に訪ねて来る。


「はい。あの子は遠くの学校に行っておりますので…」
「学校か。ならば近くの小学にでも通わせればいいだろう。私の伝手で探してあげよう」
「まさか旦那様のお手を煩わせるわけには…伏も、すでに学校に馴染んでいますから」
「学費が心配なら、私が工面しよう。おお、おお。そうだ、お前ともども私の屋敷に移ればよかろう」
「ふふ、お戯れを」


このショタコン爺が。その仙人みたいな髭を毟り取って微塵切りにしてやりたい。
私は沸々とした怒りに目元を引き攣らせたが、それに気付いたのは同席していた遊女達だけだった。
彼女達は慌てた様子で爺の気を引き始める。


今宵の舞は先ほど終わった。
あの爺が求めるのは、蝶の舞。それも伏木蔵が舞った時と同じ振りのもの。
そのことにぞわりとした執着を感じながら、私は頭を垂れて退出の辞儀をした。








客の元を回り、最後の舞を終えれば夜も更けていた。
私は廊下をぎっぎと軋ませながら、廓のもっとも奥にある自室へと入る。
灯りの消えた部屋に伏木蔵はいない。今頃学園で同じ年の子ども達と眠っているだろう姿を想像して、くすりと笑い扉に手をかける。



ぞ わ 、



途端総毛立つ鳥肌。
本能的に後ろへ後ずさると、暗闇から闇が伸びてきた。いや、闇色の衣から伸びる、大きな手。


「っ!?」


声を出すことも忘れて、私は闇に引っ張られた。



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