おはなし | ナノ 報われない正直者3



私の皮膚は一族ぐるみで鋼鉄だ。硬いっていうか、堅い。
皮膚自体は年齢もありモチ肌なのだが、何故かどんな傷もつかない。刃物で切っても無傷。屋根から落ちても無事。特殊繊維みたいな感じ。
父も母も姉も叔父も祖母もその他も皆そうだった。だが丈夫なだけでまったく傷つかないという訳ではない。
叔父は合戦場で果てたし、私自身崖から落ちて青痣を作ったこともある。
つまりあれですよ、少し丈夫。見えない甲冑背負ってるだけで、不死身ではない…と、思いたい。


そしてそんな私には、少し前から密かな野望がある。


「池田、あとどのくらい?」
「浅瀬を十二かき」
「潜水時間で答えんな」


池田が看板に書かれた忍者文字に首を捻っている最中、私は縄に吊り下げられてぶらんぶらん揺れていた。
私と池田が組んだ際はいつもこうだった。
問題は頭の良い池田が解く。罠は丈夫な私が体当たりで壊す。なんとも適材適所である。
実際このくらいの罠ならば回避可能なのだが、私はあえて突進した。


「あーあ、また無傷」


私は怪我をしたいのだ。打撲でも、切り傷でもいい。種類は問わない。酷いのは嫌だがら、少しだけ。全治二週間から一月以内が狙い目です。
別には組の皆が懸念するマゾヒストというわけではない。理由は至極単純。
愛しの左近くんが、保健委員だからだ。
私はと言えば、算術が得意だったから会計に回されていた。左近くんが保健委員になったと知り慌てて委員会移行を訴えた私だが、担任には素気無く却下された。畜生。
そして私は考えた。左近くんは保健委員。怪我した者を手当てする天使の様な左近くん。


つまり私も、怪我を負えば彼に手当てして貰えるということだ。


あの白い細い指が私の患部に触れ、癒す。考えただけでゾクゾクした。
その日から私の無鉄砲な行動は始まった。罠に飛び込み、乱闘に飛び込み、鹿子に飛び込んだが、今のところ成果は無い。田村先輩の拳骨もたんこぶ一つ出来なかった。まったく嘆かわしい体質である。
そんな私を、池田は馬鹿だと言う。能勢と四郎兵衛は止める。
左近くんは知らない。彼には言わない。



だって彼は、保健委員だから。



prev/top/next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -