おはなし | ナノ
人形芝居12



「やぁ…」
「これは…美しい」


練習時間もそう無かったので、簡単な蝶の舞。雄と雌がひらりと舞って、離れて、また近づいて。
元々の振りを少し弄って、雌の動きを少なくして、代わりに雄の動きを大きく細かくした。私の動く量は増えるが、いつもに比べたら随分楽だ。


隠居老人共はぽっかりと口を開け、舞を見ていた。
薄く笑えば、その頬に朱が差す。そんな様子では主様に良いように転がされてしまいますよ。


「さすが名高い鶴町。これ程とは…」
「息子の方もまっこと可愛らしい。さすが貴店の秘蔵っこですな」
「いや、満足して頂けて嬉しい限りです」


しゃん、しゃん、しゃん…楽と声が小さくなり、鈴の音を最後に舞が終わる。
ぱちぱちという拍手に頭を下げると、隣で真似してお辞儀した伏木蔵を真ん中の髭面が呼ぶ。


「おお、おお。良い舞を見せてもらった。どれ、こちらに来なさい。金平糖をあげよう」


ちらりと見上げてきた伏木蔵に、また小さく頷いた。本当は行かせたくないけれど、ここまできたら仕方ない。
ぱたぱた駆け寄った伏木蔵に行儀が悪いと怒るでもなくますます顔を笑み崩れさせた老人は、袂から懐紙に包まれた金平糖を取り出した。
上質の砂糖で作られたであろうそれを、手ずから口に運んでやる。
それ以上近寄るな狒々爺!思わず叫びそうになった口を扇で隠した。


「主様、そろそろ…」
「おお、そうだったな。御大尽、申し訳ありませぬが伏は子どもの身ゆえ、そろそろ下がらせて頂きたく…」


そっと目で伝えれば考えを汲んでくれたらしく、伏木蔵を下がらせるよう進言してくれた。
伏木蔵をえらく気に入ったらしい髭爺は渋ったが、上座の材木商が頷いたので退室が許された。この中では材木商が一番偉いようだ。


「さぁ、とびっきりの女達を呼びましょう!鶴町、もう一差し舞いなさい。今度は牡丹の舞が良いな。あれは華やかだ」
「はい」


しずしずと頭を下げ、伏木蔵を連れていくよう遊女に目配せする。頷いてくれた遊女は小さな体を促した。
そろそろ眠いだろうに、懸命に目を擦って耐えていた伏木蔵に自然と笑みが湧く。


「お休み、伏」
「はーい。お休みなさい、母さま」


にっこり笑った伏は、新たに入ってきた遊女達の誰よりも可愛らしかった。



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