おはなし | ナノ 人形芝居11



「やや、これは何とも…!」
「本当に男子(おのこ)ですかな」


やっぱりだ。私は呆れた顔を表に出さないよう注意して、それでも冷たい視線を向けてしまう。
部屋に入った途端、目に映ったのは三人の老人。
一人はこの廓の主、長い髭を蓄えた真ん中の男は知らないが、上座にいるもう一人は見たことがある。あの見事に禿げ上がった頭は、確か名の知れた材木商の御隠居だ。
下座に座る主様は二人に酒を勧めながら、「この見世一番の舞手と、その息子ですから」と上機嫌だ。


私が散々伏木蔵が踊ることを渋った理由が、これだ。
いくら私と長い付き合いだから、この十年で伏木蔵を孫の様に思ったからといって、この男は根っからの商売人。少しでも見世物になりそうな場を、一人で楽しむなんて真似するわけがない。
おそらくこの二人は今渡りをつけようとしている商人。それも面白い趣向が好きな、羽振りのいい道楽隠居。
商談を気分良く成立させるための見世物。そんなことに、伏木蔵を使いたくなかった。


「今宵舞わせて頂きます、鶴町でございます」
「鶴町です」
「名はなんというのかな?」


名前は名乗らぬよう言っておいた。しかし上座の材木商はにこにこ聞いてくる。
私を見上げてくる伏木蔵に、小さく頷く。想定済みの質問だ。


「…伏、です」


嘘ではない。現に私はいつもそう呼んでいる。
私の方も適当にかわし、主様の頷きを合図に楽が始まった。見世一と名高い遊女の声が歌を乗せる。


しゃん、しゃん。
扇に付けた青い組紐の先で、鈴が揺れた。



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