おはなし | ナノ
人形芝居10



主様に「絶対の約束事」と誓わせたのは三つ。

一、披露するのは主様の前でだけ
二、伏木蔵が拒否したら即刻止める
三、後にも先にも、舞うのは一回だけ

この子に舞をせびるのはこれっきりにしてくださいませ。そう告げた私に、老人の皮を被った狸はにこにこ微笑んだ。





本格的に舞ったことのない伏木蔵は、一通り練習した三日後の夜、主様の夕餉で舞うことになった。
何時から画策していたのか、その日の朝届けられた揃いの舞衣裳。贈られた扇と同じく、薄藍に黒と金糸の刺繍が目立つ着物だった。
それを着せることすら渋っていた私を遊女達がせっつく。彼女達は伏木蔵を飾りたくて堪らなかったらしい。主様の意向は渡りに船、というところか。


「わー、スリル〜」


着慣れない衣装が珍しいのか、くるくる回る伏木蔵。青褪めた顔は白粉がはたかれ、まるで人形のよう。何人かが悪戦苦闘した結果、縦線も薄くなった。
紅はいらない。髪飾りは町娘が着けるような小さいのをひとつ。私は出来る限り地味になるよう注文を出した。


「伏ちゃん大丈夫?帯が苦しくない?」
「大丈夫だよ。いつも授業で女装してるから」
「忍者ってそんなことまですんの…」


遊女との会話を漏れ聞いて、思わず笑ってしまった。
忍者は何にでも変装する…そういえば昔傀儡子にいた頃、男達の誰かがそう言っていた。あの話は本当だったのだ。


「さ、伏。主様の部屋に行きましょうか」
「はーい」


幾分か軽くなった気分で、私は幼い手を引いて戦場へ向かった。



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