おはなし | ナノ 人形芝居6



伏木蔵が旅立った日の夜、私の機嫌は最低に近かった。
一人出をしたことのない伏木蔵が子攫いに遭わないよう、信用できる男衆の一人に預けたが…心配で堪らない。
野盗に出会ってはいないか、物の怪の類に惑わされてはいないか。
悶々と悩む私を、遣手が笑った。


「あの子なら大丈夫だよ」
「でもあの子、誰に似たのか能天気でねぇ…」
「あんまり悪い想像をしてたらその通りになっちまう。ほら、座敷に行きな」
「はーい」


踊っている間は何も考えない。反応するのは楽にだけ。指先までそっくり違う何かが入ってきたかのように、私は私じゃなくなる。
たぶん私は舞が無ければ、物理的にも精神的にも生きられなかっただろう。伏木蔵を生かすことが出来たのも、舞のおかげ。
そして舞さえ踊れなければ、廓に骨を埋めるなんてことにならなかったのかもしれない。


伏、伏、可愛い伏木蔵。早く帰って来ないかしら。
一人で考えると良くないことばかり浮かんで、気分が沈んでしまう。いつもの様に怪談話をしようにも、きらきら目を輝かせて聞いてくれる子がいないと。



どうやら私はこの十年で、とても弱くなってしまったようだ。



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