おはなし | ナノ
おさなづま5
さて、あの日『皆本金吾』に求婚した俺だが、返事はまだ貰っていない。
まぁあの瞬間まで顔も名前も知らなかったんだ。返事が返せるどころか、断る可能性すらあった。
というか断られると思っていた。
なのに彼は眉を八の字にして、戸惑ったような困ったような顔で「考えさせてください」と言ってきたのだ。
(おや?)
俺はその時、何故か酷く驚いてしまった。
本気になった暴君から逃げ切ることは難しい。
俺はさっさと逃げ出した三人(誰かは察してほしい)を内心罵りながら、盆で手刀を止めた。
ぱかり。
真っ二つに斬れた。「折れた」でも「割れた」でもなく。
「な、七松先輩ストップ!ストップして!洒落になんない!」
「お前の命を止めるのか」
「違えよ暴君!!それこそ洒落にならんわ!!」
駄目だ話が通じない。
雷蔵と勘右衛門はおろおろしてるし、立花先輩は笑って冷奴食ってるし、食満先輩は変な声援送ってるし、善法寺先輩は不運だし、中在家先輩は微動だにしてない。
誰か!お客様の中に誰か俺を助けてくれる救世主はいらっしゃいませんか!?
俺は泣きそうになりながら周囲を見回した。茫然とした顔の忍たま、忍たま、笑う立花、忍た…いた!
「ももも、文次先輩助けてー!!」
「名前…」
ケテタス!俺は四分割された盆を放り出して以前会計委員として旧交を深めた先輩に泣きついた。
ああもう先輩頼りになる。隈も素敵です。女が放っておかないよヒューヒュー。
「そのくらいの攻撃、避けんでどうする!」
ジーザス!!
「隈も暴君も嫌いだぁぁぁ!!」
「安心しろ、七分の七殺しで勘弁してやる」
「それ全殺しじゃねーか!!!!」
俺の命の灯が暴君によって踏み消されようとした瞬間、救世主が現れる。
「七松先輩、やめてください!」
暴君の横腹にタックルした『皆本金吾』の姿に、俺は再度驚いた。
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