おはなし | ナノ
おさなづま4



「名前!一年生に求婚したって本当か!?」


運命の出会いの翌日、戸が壊れそうな勢いで教室に駆け込んできた八左ヱ門がいの一番に聞いてきた。
昨日からいったい何人に同じことを聞かれたか…俺は他にしてきたように、八左ヱ門にも満面の笑みで答えた。


「本当だ」


他にも気になっている奴がいたのだろう、教室がざわっと騒がしくなる。
八左ヱ門は呆れたような喜ばしそうな、複雑な顔をしていた。


「でもお前…一年って…」
「愛に年の差は関係ない。必要なのは運命だ」
「えー…運命とか言う名前キモいわー」


失礼な八左ヱ門の両頬に綺麗な紅葉型を付けていると、再度戸が壊れそうな勢いで開いた。


「名前!ロリショタ趣味が高じて一年を襲ったって本当かこのペド野郎!?」


駆け込んできた三郎にクナイが飛んだのは仕方ない。





食堂でA定食を持って席を探していると、先に来ていたい組の二人が手招きをしていた。
勘右衛門のほわほわ笑顔に心癒される。今日は朝からペドショタロリと周囲が煩い。


「ペド野郎、そこに座るのだ」
「よーし表出ろ豆腐。二秒でおぼろ豆腐にしてやる」
「ちょ、兵助!名前も落ち着いて!」


まぁまぁ座って、と宥める勘右衛門は本当に癒しだ。雷蔵と並んだらヒーリング効果が凄い。
ただ残念なことにその雷蔵は現在、定食をどちらにしようかを世界滅亡を賭けた選択のような顔で悩んでいる。邪魔は出来ない。


「それで、噂は本当なの?その、一年に…」
「ああ、結婚を申し込んだ」


俺がきっぱり頷くと、聞きにくそうにしていた勘右衛門が複雑そうな顔をした。朝の八左ヱ門の様な、呆れていいのか喜んでいいのか分からないという、変な顔。


「でも、くのたまは止めとけって散々皆で止めたのに…」
「ったく。俺達の善意の忠告を何とも思ってないんだろお前は」
「まぁまぁ。好きになっちゃったなら仕方ないよ」
「甘いぞ雷蔵、こいつのことだから料理が美味かったとかそんな理由だ。きっと」


いつの間にか後ろに来ていた八左ヱ門が、拗ねた口調で卓に盆を置いた。少し遅れて三郎と雷蔵も。
全員A定食だ。やっぱり今日はそれだよな。俺はB定食の冷奴を美味しそうに頬張る兵助を見なかったことに……ん?
俺は首を傾げて、皆の間違いを正した。


「一年は一年でも、忍たまの方の一年だぞ?」


「……は?」


ぴしり、と固まった全員。あの兵助でさえも、豆腐を食べる手を止めていた。
そんなにおかしいことを言っただろうか。そりゃあ俺自身、相手が男だったことに驚いてはいるが。
俺がおひたしを食っていると、ようやく回復した雷蔵が震える声で訊ねてきた。


「に、忍たま…?」
「ああ。誰もくのたまだなんて言ってない」
「忍たまの、一年」
「そうだ」
「…きり丸?怪士丸?」
「誰だそれは?」


俺が訊ね返すと、震えながらも雷蔵はあからさまな安堵の息を溢した。なんだいったい。
その途端他の皆も石化から回復したようで、いっきに捲し立ててきた。なんだいったい。


「ちょ、三治郎か!?いや、虎若、孫次郎、一平も可愛い…吐け、吐くんだ名前!!」
「庄左ヱ門、彦四郎…どちらの名前が出てきても、俺はお前を生きては帰さんぞ」
「伊助と言ったが最後、お前を豆腐の錆にするのだ」
「えー…何これー…」


皆なんか怖い。俺は勘ちゃんに助けを求めるが、苦笑するだけで助けてはくれない。その目も何か不穏な色が宿っていて、俺は身の危険を感じて慌てた。


「ち、違う!どの名前も知らん!俺が求婚したのは『皆本金吾』くんだ!!」
「なんだと?」
「だからみなも…と…」


高らかに宣言した瞬間、背筋を走る悪寒。冷や汗が一滴、頬を流れ落ちる。
危険、危険だ。本能的な命の危険に、頭が警告音を発する。
後ろを振り向きたくない。しかし向かなければ、命は無い。


俺はおそるおそる、まるで昨日の『皆本金吾』のように恐々と「それ」を見た。



「ほほう。私の後輩にちょっかいをかけるとは…いい度胸だな」



後ろにいたのは丁度授業を終えたばかりだろう、六年の面々。
その中でも暴君と名高い七松小平太が、禍々しいオーラを発して獣の笑みを浮かべていた。


――やべ、俺、結婚する前に死ぬかもしんない。



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