おはなし | ナノ あと3歩足りてたら



突然ですが、川西左近はとても天の邪鬼な性格でした。ツンデレが多いと噂される二年生の中でも、特にツンツン。
なので一年の頃から全力で好意を表してくるは組一の馬鹿が、大の苦手でした。


「川西く…いや、さ、ささ、左近くんって呼んでもいいかな!大好き!」


初対面から飛ばしてくる馬鹿は、廊下で会えば「好き」、食堂で会えば「大好き」、合同実習では「愛してる」と告げてきます。
終始そんな態度なんですから、始めは馬鹿にされているのかと思って怒りました。


「愛しの左近くーん!」
「いい加減にしろ!そんなにぼくをからかって楽しいのか!?は組一の大馬鹿のくせに!!」


今までの鬱憤が爆発したような怒声に、馬鹿は眼をぱちくり。
さすがに言い過ぎたかと左近が心配したのも束の間、馬鹿は本当の馬鹿であったことを証明しました。


「お、怒ってる左近くんもプリティ…!」
「くたばれ!」
「おごふっ」


思わず手が出てしまった左近ですが、その出来事を見ていた友人達からは適切な処置であったと褒められました。
ただその馬鹿はその後何度殴られても笑顔で愛を告げてきて、ようやく左近は確信しました。
こいつはぼくをからかってるんじゃない。正真正銘の馬鹿だから、そんな真似できるわけがない。
そう思ったときから、何故か馬鹿に告白されるたびに左近の胸はざわざわしました。


そうして一方的な殴り合いにより親睦を深めてきましたが、左近が保健委員会に入って暫くしてから、馬鹿の馬鹿な行動に気づきます。
彼はわざと危ない目に遭って、怪我を負おうとしているようでした。
彼と同じ組の四郎兵衛に聞けば、どうやら自分に看病してもらいたくての行動だとか。
左近の怒りはまたも爆発しました。同時にとても胸が痛くなったのですが、それは誰にも秘密です。


そうして彼に声をかけることもなくなり、今に至ります。
相変わらず彼の方は日夜危ない行動に走り、「好き!」と辺りを憚ることなく告げてきますが、左近はその度に泣きそうな気持ちになりました。
今日もオリエンテーリングの最中、きっと危険に飛び込んでいるでしょう。
風邪をひいてしまった左近は、医務室で寝転がりながら、彼が愛を告げながら飛び込んでくるのを待ちました。


今日こそは、彼に「ぼくが好きなら危ないことはするな!」と怒ってやるつもりでした。
それさえ約束してくれれば、その後、ずっと秘密にしていた言葉も言うつもりでした。


(まだかな)


真っ赤になった彼の顔を思い浮かべる左近は、今彼が何処でどうしているかなど、知りようもないのでした。



あと3歩足りてたら



(「---?」)
(何故か彼の名前を呟いてしまった左近は、何気なく戸を開けました)
(そこには―――)




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これが本当の悲劇。
最後までご覧下さりありがとうございました。



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